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“証券マンのセールストーク”が誕生させた、群馬の大投資家・Fさんの話

“大投資家を生み出す”セールストーク、そしてリーダーの条件とは?

「大投資家Fさん」は、Fさん自身と証券マンたる私との「合作」だと言った。私のセールストークがなければ、投資家としてのFさんは金融資産のうちわずか数パーセントを分散投資する、手堅い人物のままだったろう。

ここで私が強調したいのは、セールストークはその内容にもまして、語り口や雰囲気こそ重要だということだ。Fさんはすぐに乗ってきて、60円の新日鐵株を100万株、信用取引で買うことになった。

社内コンペのルールに「信用取引不可」の文字はない。当然、100万株コンペは私が一番乗りになった。

私は幼少のころから話が大きかった。それは家庭環境によったと思っている。

まだ7~8歳の頃、母が「和邦の話は大きすぎる。話は3分の1で聞いておきましょう」と笑い、それに兄が「いや、5分の1でいいよ」と応じていたのを覚えている。

ちょうどそのころ、私は学校で九九を習ったばかりだったから、「母は3分の1と言い、兄は5分の1と言う。ならば、サンゴ・ジュウゴの15倍で話さなければ」と決めた。それが始まりだった。

だからこそ、長じて後、顧客にたかが株を薦めるのにも、零戦だとか戦艦だとか世界が震撼した企業だとか、希有壮大に演説できたのだ。決算内容がどうだとかいうチマチマした話はまずしない。それは目先に惑わされない長期視点の相場観醸成にも繋がっていった。

それから、リ-ダーシップの定義とは何か?これを私は課長代理になった時から自分のテーマとして毎日考え続けてきた。

織田信長や徳川家康を読むときも、ナポレオンやプルターク英雄伝や新撰組を読むときも、常に途中でページを伏せては「俺なら、こういう時にはどうする?」を考えた。

もちろん、ドラッカーをはじめリーダーシップ関連の書籍も、目に触れるものは片端から読破した。だが、それらを読んでも所詮「ものしり」になるだけで、「鉄火場のリーダーシップの本質」は学べなかった。ガルブレイスも私の疑問に答えてはくれなかった。

私が一番多くを学んだのは新撰組と古代ギリシャのプルターク英雄伝だった。それらを通して、リーダーシップの定義は次のとおりだと確信した。今でもこれが最も正しいと考えている。

定義は全ての場合に当てはまらねばならない。軍団長にも、会社社長にも、暴走族のリーダーにも当てはまらねば定義と言えない。そこでリーダーシップを、

  1. ある状況の下で
  2. 特定の目的を達するために
  3. 行使される
  4. 対人間の
  5. 影響力である

と定義した。各項それぞれ、

  • リーダーは状況に応じてパワーを使い分ける
  • 目的は「優秀な支店になろう」など漠然としたものではなく「21ヶ店で50%以上の差をつけて一番になる」「100万株単位のペロを切る」と明確にする
  • リーダーシップは行使されてはじめて意味を持つ
  • 相手は知識でも金でもなく人である
  • リーダーシップは実際の力となって他人に作用する

ことが肝要である。

リーダーは状況に応じてパワーを使い分け目的を達成する。ジョン・コッターの分類が実践的だからこれを採ると、人柄のパワー / 専門的技能・知識のパワー / 情報力のパワー / 脅威・強制力のパワー / 人脈・コネクションのパワー / 制度上正当と認められる地位によるパワー / 報償・評価を与えるパワー の7つになる。

どれが良いパワーで、どれが悪いパワーかは問うところではない。目的に対して効果があるならすべて良いパワーだし、効果がないならすべて悪い。ここが大切なところだ。

例えば「人柄」や「専門的技能・知識」は良いパワーだとか、「脅威」は悪いパワーだとか、そういった道徳学的なにおいのするリーダシップ論は幼稚なニセモノである。

「大投資家Fさん」をFさんと「合作」した期間で、私は課長代理から課長になり、5人の先輩を飛び越えて支店次席になり、ウォール街視察組として全国4人のうちの1人に選抜され、その翌々年には全国最若年で第一選抜の支店長になって高崎支店を転出することになった。

野村では第一選抜の支店長は歴代、副社長以上になるか、在職中に死ぬか、あるいは“中途退学”するか、この3つのうちいずれかで、例外はないと言われていた。私は故あって3番目のケースを取ったが、その経緯は別稿としたい。

私の証券マン人生を決定づけたFさんはその後、先代から引き継いだF社を充実拡大し、あっぱれ二代目社長として自社を東証に上場させ、経済同友会の幹部になられた。

Fさんは今もご健在で、個人的なお付き合いは続いているが、当時のような株式投資で切った張ったの話を伺うことはなくなった。半世紀近く前、二人三脚でペロを切りまくった「大投資家Fさん」の記憶が残るのみである。

山崎和邦(やまざきかずくに)

山崎和邦

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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