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国民経済が第一。あなたは本物のエコノミスト「下村治」を知っているか?=施光恒

最近の経済政策は「グローバル投資家・企業」の利益こそが第一

最近の経済政策は、残念ながら、グローバル市場を円滑に運営すること、つまりグローバルな投資家や企業の利益こそが第一であり、各国の国民経済の充実は二の次といわんばかりのものが普通になっています。

下村の議論は、この傾向がすでに表れていた当時のアメリカの経済政策を批判します。アメリカの経済政策の背後には「国民経済の論理」と矛盾する「多国籍企業の論理」が存在すると指摘し、この奇妙さを批判するのです。

多国籍企業というのは国民経済の利点についてはまったく考えない。ところがアメリカの経済思想には多国籍企業の思想が強く反映しているため、どうしても国民経済を無視しがちになってしまう。

出典:『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』著:下村治/刊:文春文庫

下村がこの頃、懸念していた「多国籍企業の論理」は「グローバル・スタンダード」とされ、その後、アメリカだけでなく、日本やそれ以外の多くの国にも広まってしまいます。

グローバルな投資家や企業に有利なように、「構造改革」の名の下、各国の国民経済のあり方をどんどん変えていこうという本末転倒の事態、つまり「グローバルな投資家や企業の利益 > 各国の国民経済(一般国民の利益)」という事態に陥ってしまいました。

下村の文章は、この奇妙さにあらためて気づかせてくれます。

廃れてしまった「国民経済の充実こそ第一」という考え方

各国の経済政策は、自国の国民経済の充実であることこそ基本です。もちろん、各国が「自国の国民経済ファースト」でいけば、利害は少なからず対立します。

下村は、それをうまく調整していくことこそ国際経済の役割だと指摘します。ここでは、自由貿易も絶対ではありません。自由貿易は、国民経済を富ませるための、つまり自国の国民に多くの高付加価値の就業の機会を与えるための一手段にすぎないと述べます。

こうしたひと昔まえまで常識だった国民経済の充実こそ第一という考え方が廃れ、下村が批判するところの「多国籍企業の論理」が世界を席巻しているのが現状です。

今回の選挙では、「しがらみの打破!」とか単純なことを言わずに、国民各層、各業界の声を丁寧に聴き、多様な利害の調整を繰り返しつつ、国民経済の充実という第一目標の達成を目指す政治家に出てきたもらいたいものです。

そのうえで、選ばれた政治家は、せっかく英国のEU離脱やアメリカのトランプ大統領の選出のように、国民経済の充実という路線を再評価しようという機運が世界の一部で昨年来、高まっているわけですから、そういう動向をよく見極めてほしいですね。そして「多国籍企業の論理」ではなく、各国が国民経済の充実という目標を推し進めることのできるまっとうなポスト・グローバル化の世界秩序を提案し、実現に向けて行動してほしいと思います。

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三橋貴明の「新」経世済民新聞』(2017年10月13日号)「国民経済を重視したエコノミストの迫力」より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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