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プライマリーバランスが赤字であっても財政再建は達成できる!

現在、政府は、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化するため、6月中にまとめる財政健全化計画について議論しています。ところで、プライマリーバランスとはどんなものなのでしょうか。何となく「プライマリーバランスが黒字化すれば財政再建ができる」と漠然と思っている人も多いのではないでしょうか?中小企業診断士であり作家の三橋貴明さんは詳しい解説と共に、その先にある問題点についても言及しています。

プライマリーバランス議論の異様性

プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、過去の債務(国債)に関わる元利払い以外の支出と、国債発行による収入を「除いた」歳入と歳出のバランスである。

プライマリーバランスが均衡している場合、毎年の歳出が歳入の範囲で賄われていることになる。ということは、政府の債務の増加分は「国債の利子」分のみになる。

財政再建の定義は「政府の負債対GDP比率の低下」である。プライマリーバランスが成立し、国債利子率と経済成長率(名目GDP成長率)が同じ場合は、政府の負債対GDP比率は一定という話になる。

上記の通り、プライマリーバランスとは、あくまで、

●プライマリーバランス
●国債利子率
●経済成長率

の三つの関係から論じられなければならないのである。すなわち、「プライマリーバランスを黒字にしなければ、財政再建の定義はできない」という論調は、根底から間違っていることになる。何しろ、プライマリーバランスが赤字であっても、名目GDP成長率>国債利子率の関係が「充分に成立」していれば、財政再建(政府の負債対GDP比率)は達成される。

それにも関わらず、プライマリーバランス黒字化論者たちは「プライマリーバランス黒字化=財政再建」と主張している。プライマリーバランス黒字化そのものが「目的」と化しており、財政再建という真の目的との間で、「手段と目的の混同」が起きているとしか思えないのだ。プライマリーバランス黒字化は、あくまで財政再建という目標達成のための手段の一つであって、目的そのものではない。

財政再建の話から離れ、国民経済というマクロの視点から見ても現在のプライマリーバランスを巡る議論はおかしい。何しろ経常収支黒字国の我が国では、政府がプライマリーバランスの赤字になり、「新たな負債=借金(債務)」を増やしたとき、必ず反対側で誰かが「新たな資産(債権)」を増やしている。

この世に「負債だけを増やすことができる存在」は存在しない。政府が負債を増やせば、当然、反対側に資産が増えた「誰か」がいるのである。

昨今の日本政府は、プライマリーバランスの赤字を続けている。すなわち、新たに増やし続けているのである。ということは、反対側に必ず「資産を増やしている誰か」が存在することになる。

20150619-12
【日本の全経済主体の純貸付(+)と純借入(-) 単位:対GDP比%】

図の通り、日本政府(一般政府)の純借入(プライマリーバランスの赤字)は、06年前後を例外に、対GDP比で5%を超を継続している。反対側で純貸付(=資産・債権)を積み上げていっているのは、家計ではない。リーマンショック以降、家計の純貸付は減少を続け、2013年にはついに-0.1兆円にまで減少してしまった。すでに、日本の家計は「貯蓄取り崩し」状況にあるのである。

2009年以降、負債を増やす政府の反対側で資産を増やしていったのは非金融法人企業、すなわち一般企業である。

資本主義において、負債を増やす「主役」たるべき経済主体は一般企業である。一般企業が負債と「投資(設備投資)」を拡大し、経済成長を牽引する。政府は収支均衡に近づき、家計が貯蓄を増やすのが資本主義の王道なのである。

組み合わせを書いておくと、

●一般企業:負債増
●一般政府:均衡
●家計:資産増

上記が資本主義における「最も理想的な状況」と考えられている。ところが、現実の日本は、

●一般企業:資産増
●一般政府:負債増
●家計:均衡

という組み合わせになってしまっているのだ。

結局のところ、デフレ下では企業は借り入れや設備投資を増やさず、むしろ資産を増やそうとしてしまうわけである。その分、誰かが負債増を引き受けなければならなず(さもなければ、GDPが激減することになる)、政府がその役割を担っているというに過ぎない。

ということは、現在の日本政府が真剣にプライマリーバランス黒字を目指し、実際に達成した場合、家計もしくは海外が負債の激増という事態になりかねないのである。あるいは、GDPが10%近いマイナス成長になるか、である。

デフレで企業が負債と投資を増やそうとしない以上、日本政府がプライマリーバランスの赤字が継続しているのは、国民経済的にむしろ正常なのだ。それにもかかわらず、政府「のみ」に注目したプライマリーバランス黒字化論が語られるわけだから、我が国の政治家の頭の中は「家計簿」のレベルを上回っていないという話になる。

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.317より抜粋

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