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トマ・ピケティが証明した資本主義のメリット!格差の緩和には民主的な選挙が鍵を握る

民主主義は資本主義の安定化装置である。

などと書いても、ピンと来ない読者が多いと思うが、実際に民主主義は資本主義の安定化装置である。

「21世紀の資本」のトマ・ピケティの功績の一つは、資本主義においては、基本的には「r>g」、すなわち資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回り続けることを、過去200年間の統計データで証明したことである。

経済成長率とは、国内の所得の合計でもあるGDP(国内総生産)の拡大率だ。無論、労働分配率の問題はあるが、一応、GDPが成長していれば、国民の「全体の所得」が増えていると考えて差し支えない。

ピケティの「21世紀の資本」によると、19世紀から20世紀(第一次世界大戦まで)の先進国における資本収益率は、平均で5%ほどだった。それに対し、経済成長率の方は2%程度に過ぎなかった。

まさに「r>g」が成立し、主要先進国は日本も含め、国内の所得や資産の格差が拡大していった。

第一次世界大戦から、オイルショックが発生した1973年まで、西側先進国において経済成長率が資本収益率を上回る。特に、第二次世界大戦終結からの四半世紀は、日本をはじめとする西側先進国は、かつて人類が経験したことがないレベルの「格差縮小型経済成長」を現実のものとし、黄金の四半世紀と呼ばれたのである(日本では「高度成長期」)。

二つの大戦を経ることで、先進国では「国民経済」が重視されるようになる。何しろ、戦争とは「国民を一体化」しなければ戦えない。

各国の政治家は必然的に、「富裕層」ではなく「国民」のための政策を推進せざるを得なかったわけである。

また、1946年にIMFが創設し、ブレトンウッズ体制が始まったが、ケインズの影響により国家間の資本移動の自由は制限された。労働移動(移民)の数も現在ほどではなく、さらに富裕層に対する課税も強化されたため、各国の政策による所得再分配機能も強まった。

1980年代以降、いわゆる新自由主義に基づく政権がイギリス(サッチャー政権)、アメリカ(レーガン政権)で発足した。その後、各国で次々に「民営化」「規制緩和」「自由貿易」「富裕層減税」「法人税減税」といった政策が進められ、世界が再び「r>g」の時代を迎えたのはご存知の通りである。

すでに、米英両国の格差水準は、100年前、つまりは第一次世界大戦前とほぼ同じ水準に戻ってしまっている。

歴史的事実に鑑みるに、結局のところ資本主義とは「政治」により所得再分配機能を強化し、「自由競争」「自由貿易」をコントロールしない限り、「r>g」の環境が成立してしまうのである。

経済学者は「資本の限界効率逓減の法則」、すなわち、「資本を1単位追加投資した時に期待できる資本の利潤率が次第に下がっていく」法則という名の「仮説」を持ち出し、「r>g」の常態化を否定するだろう。とはいえ、現実のデータを見る限り、「g>r」が成立した時代はあくまで「例外」なのである。

それにしても、「g>r」が「戦争」を経なければ成立しないというのは、実に象徴的であり、同時に示唆的だ。無論、「g>r」を取り戻すために、戦争をするべき、などと言いたいわけではない。

別に「戦争」をしなくても、政治家が「国民」を意識した政治をせざるを得ない状況を作り出せば、「r>g」から「g>r」への転換は実現できるのだ。そして、各国の国民は(中国などは除く)政治家に「国民を意識した政治」を実行させる力を持っている。もちろん、民主主義だ。

「r>g」が成立しており、格差が持続不可能な水準に拡大しているならば、民主主義により政治的に事態を改善することは不可能ではないのである。何しろ、いかなる国家においても、富裕層は少数派だ。

そして、民主主義国においては、富裕層も中間層も貧困層も、等しく「一票」を持つ。

というわけで、「情報が正しく行き渡った」状況で民主的な選挙が行われれば、黄金の四半世紀をもたらした各種の政策を推進することは実現できる。問題は「情報」だけなのである。

もっとも、「r>g」的な政策を望む層(富裕層とは限らないのだが)は、そんなことは百も承知だ。だからこそ、マスコミを握り、言論を支配し、ロビイストを増やし、政治献金を「自由化」することで、政治や民主主義に影響力を与えようとするのである。

民主主義という安定化装置が巧く機能しなければ、結局は「r>g」的な政策ばかりが推進されることになる。

とはいえ、現在のアメリカが典型だが、「r>g」により国内の所得格差があまりにも開いてしまうと、社会が不安定化する。不安定化した社会で暮らすことは、結局は富裕層にとってもコストが高くつく。

無論、「ならば、アメリカ以外のどこか別の国に移り住めばいい」と考えるのが「グローバルな富裕層」なのだろうが、主要先進国で次々に国民が「g>r」を求め始めると、移り住む先が次第に少なくなっていく。

最終的に、グローバルな富裕層の「楽園」は、民主主義が存在しない共産独裁国「中国」になるのではないか。などと、皮肉なことを考えてしまうわけである。

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.312より抜粋

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