fbpx

一万円札自体の価値は原価19円の紙だ!見るべきは「おカネ」ではなく「所得」

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年4月13日号より
※本記事のタイトルはMONEY VOICE編集部によるものです

「経済」の目的は、おカネを稼ぐことではありません。おカネを稼ぐとは、ビジネスあるいは経営の目的なのです。別に「おカネを稼ぐ」ことを否定しているわけではありません。単に、経済の目的ではないと言っているだけです。経済の目的とは、「経世済民」つまりは「国民が豊かになること」になります。

「豊かになる」とは「おカネが多いこと」ではないのか? と、誤解しないでください。「おカネが多い=豊か」という定義になるならば、日銀に頼んで(実際に印刷するのは国立印刷局ですが)一万円紙幣を一京円分刷らせ、各家庭に配ればいいのです。それで皆さんが「豊かになれる」と思いますか。

なれません。某メガヒット作品に「単価18万円のシスターズ」が出てきますが、一万円札は実際には「単価19円の紙切れ」なのです。

豊かになる、とは、国民が働き、稼ぐ所得で買えるモノやサービスが増えていく、という意味になります。つまりは、実質賃金の上昇です。

そして、国民の労働により生産されたモノやサービスは、他の国民が稼いだ所得で購入されることになります。結果、働いた国民に所得が生まれます。

生産、購入(支出)、そして所得とは、要するにGDPの話です。GDPとは非常によくできた統計で、所得創出のプロセスを明確に定義する上に、「豊かさ」の指針になります。マクロ的な意味の「豊かになる」とは、国民一人当たりのGDPが増えていくことであると理解して構いません。

無論、GDPは「おカネ」で換算されるわけですが、それは他に適切なメトリクス(物差し)がないためです。おカネ自体に価値があるわけではありません。価値があるのは、あくまで「所得」です。

つまりは、国民が働き、必要なモノやサービスをきちんと生産、供給できるのか否か。これが本来、「豊かさ」の指標なのでございます。

発展途上国が「豊かではない」のは、別におカネがないためではありません。国民の需要を満たす供給能力が足りないためなのです。インフラ等の資産が不十分では、国民がどれだけ懸命に働いても、需要を満たすだけの供給能力を得ることはできません。

具体的な例を出しておくと、「橋を架けることができなければ、川の向こうに農産物を届けることができない」のです。もちろん、橋を架けられないならば、船で届ければいいわけですが、当たり前の話として、「橋の上をトラックが次々に駆け抜け、農産物を届ける」のに比べ、小舟でえっちら、おっちらと運ぶのでは、「一定時間に運べる農産物の量」は、文字通り桁が違います。つまりは、橋とトラックを使う方が、小舟で運ぶよりも「生産性が高い」のです。

生産性とは、生産者一人当たりの「生産」です。ということは、GDP三面等価の原則により、生産性が高い国には「生産者一人当たりの所得が多い」という話になります。要するに、豊かなのです。

経済成長は、生産性の向上で達成されます。そして、生産性の向上のためには、上記の「橋とトラック v.s. 小舟」の例からも分かる通り、インフラや設備が決定的な役割を果たします。小舟で運ぶしかないままでは、国民がどれだけ懸命に働いても、「生産」の規模は限られてしまうのです。

それにも関わらず、日本には本来的には重要ではない「おカネ」をあまりにも重視し、「豊かさ」をもたらすインフラ投資に背を向ける人が少なくありません。政治家にしても、ほとんどがそうでしょう。

重要なのは「おカネ」ではなく、「所得」である。この一点を理解してもらうだけで、相当な「思考のブレイクスルー」が起きると思うのですが、いかがでしょうか。

無料メルマガ好評配信中

三橋貴明の「新」日本経済新聞

[無料 ほぼ日刊]
●テレビ、雜誌、ネットで話題沸騰!日本中の専門家の注目を集める経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、浅野久美(チャンネル桜キャスター)、青木泰樹(経世論研究所 客員研究員)、平松禎史(アニメーター・演出家)、宍戸駿太郎(國際大学・筑波大学名誉教授)、佐藤健志(作家・評論家)、島倉原(評論家)、上島嘉郎(ジャーナリスト/元「正論」編集長)などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り! 日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!

いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー