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このままだと日本はもっと貧困になる?日本のデフレ対策が抱える2つの問題点

3月17日の黒田日銀総裁の定例会見を受け、『本当はヤバイ!韓国経済』でお馴染み、三橋貴明さんのメルマガが興味深い号外メルマガを配信しました。なんでも「インフレ目標の定義」と「量的緩和から所得拡大に至る道」を改めて考えないと日本の貧困化はますます進むようで……。

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年3月18日 号外より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出しはMONEY VOICE編集部によるものです

日本のデフレ対策は2つの大きな問題点を抱えている

日本銀行の黒田総裁が、金融政策決定会合で記者会見しました。

 日銀の黒田東彦総裁は17日の金融政策決定会合後の記者会見で、物価上昇率が前年比でマイナスに転じる可能性を認める一方、企業や家計の物価観に影響はなく、原油安の影響がはく落することで2015年度を中心とする時期に物価目標の2%に達するとの見解を強調した。
物価はプラス幅を縮小しているが、円安・株高基調が続いており、現時点で追加緩和は不要との判断とみられる。
<今のところ物価の基調に変化なし>
午前中の金融政策決定会合では、賛成多数で政策の現状維持を決め、「緩やかな回復基調を続けている」との景気判断を据え置いたが、消費者物価指数(生鮮除くコアCPI)について、足元は「0%台半ば」から「0%台前半」、先行きは当面「プラス幅が縮小」から「0%程度」にそれぞれ下方修正した。(中略)
日銀が金融政策運営の目安とするコアCPIは、昨年4月に前年比1.5%(除く消費増税分)上昇したのをピークに下落基調にあり、ことし1月は同0.2%の上昇率にとどまった。黒田総裁は会見で今後も「エネルギー価格の動向次第で、若干のマイナスとなる可能性を排除できない」と指摘した。
昨年夏以降の急激な原油安でコアCPIが大幅に下押ししたことで、日銀は1月の決定会合で、指数そのものでなく、物価の基調を見て政策判断することで事実上合意したことが、議事要旨などから明らかになっている。
黒田総裁は、物価の基調とは「需給ギャップや期待インフレ率」で示されるものと説明。「中長期的な期待インフレ率は維持されており、原油下落が影響する懸念はない」、「今のところ、デフレマインド転換が遅延する懸念が出てくるとは思わない」、「今のところ、物価の基調が変化する状況にない」と述べ、現時点で追加緩和は不要との見解を強調した(中略)
なお、就任時は2年での必達を掲げていた2%目標の達成時期を、事実上16年度も入る3年半にすり替えたのでは、と質問する記者に対して、黒田総裁は、記者の質問を一部無視して回答を続ける場面があった。(後略)』

黒田日銀総裁の会見で面白かったのは、
「エネルギー価格の動向次第で、若干のマイナスとなる可能性を排除できない」
と、足し算エコノミスト(参考資料【青木泰樹】足し算エコノミスト )的なロジックで、コアCPIがマイナスに落ち込む(落ち込むと思います)可能性を認めておきながら、同時に、
「物価の基調とは需給ギャップや期待インフレ率で示されるもの。中長期的な期待インフレ率は維持されており、原油下落が影響する懸念はない」
と、岩田規久男日銀副総裁式というか、「経済学的」なロジックで物価変動を説明している点です。

短期では、
「相対価格の変動は一般物価に影響する」
中長期では、
「相対価格の変動は一般物価に影響しない。物価はマクロ要因(期待インフレ率、需給ギャップ)で決まる」
と、言いたいのでしょうか。面倒な話でございます。

個人的には、とりあえず「需要牽引型」の物価上昇局面に入れるならば、足し算エコノミスト方式でもマクロ要因でも何でも構わないのですが。

さて、
「物価水準はいかにして決まるか?」
という、アカデミックな話は置いておいて、現在の日本の経済政策(デフレ対策)は、大きく二つの問題を抱えています。一つ目は、「物価」の定義です。

散々に繰り返していますが、日本銀行のインフレ目標の「インフレ」は、コアCPIです。つまりは、エネルギー価格を含む「生鮮食品を除く消費者物価指数」で図られているのです。

何が悲しくて、エネルギー自給率6%の日本が、インフレ率に外国から輸入する原油価格を含めなければならないのでしょうか。今後、ISILがサウジアラビアなどで攻勢に出た場合、さすがに原油価格は上昇に転じると思います。

その場合、原油価格上昇がコアCPIの上昇圧力となり、日銀のインフレ目標2%が「達成されやすくなる」という意味不明な状況になってしまうわけです。日本のインフレ率は、コアCPIではなく、エネルギーを除いた「コアコアCPI」で見るべきなのです。

二つ目は、量的緩和はいいとして、
「そこから所得拡大(=需要拡大=生産拡大)が導かれるルートが不明確」
という点です。

要は、日本銀行が国債を買いとり、日本円を発行した時点では、別に誰の所得も生まれておらず、物価にも何の影響も与えないという話になります。何しろ、所得とは、
「国民が生産者として働き、モノやサービスという付加価値を生産し、消費や投資として支出されて初めて創出される」
わけであり、さらに物価とは「モノやサービスの価格」を意味しているのです。

量的緩和により株価がどれだけ上がろうと、外貨がどれだけ買いこまれようとも、物価には直接的に何の影響も与えませんし、所得も生まれません。

無論、量的緩和により円安になり、株価が上昇すると、
「株価が上昇し、キャピタルゲイン(もしくは含み益)を得た国民が消費を増やせば、所得が創出される」
という資産効果や、あるいは、
「将来、インフレになると予想すると、国民は消費を増やす」
という「理屈」は分かります。とはいえ、資産効果がいくらなのか、あるいはインフレ予想が消費を何パーセント増やすのか、この世の誰にも分かりません。資産効果や期待インフレ理論は事前に「計測不能」なのです。

それに対し、財政出動は計測可能です。日本銀行が量的緩和で金利を抑制し、政府の実質的な負債を削減していくと同時に、たとえば公的固定資本形成を追加的に10兆円増やせば、日本のGDPは「確実に2%以上」成長することになります。ここに、乗数効果が加わるため、実際の成長率はさらに高まります。

そんなことは、四則計算ができる日本国民であれば、誰にでも理解できるはずです。

この「誰にでも理解できること」を政治家や官僚が理解してないか、もしくは理解していないふりをしているからこそ、我が国は国民の貧困化が継続しているわけでございます。

当初の「日本銀行のコミットメント」のラインであった、15年4月が迫っています。すでにして、インフレ目標を達成できる可能性はゼロですが、「コミットメント(責任を伴う約束)」をした方々は、どうせ何の責任も取ろうとしないでしょう。

ならばせめて、上記二つの問題、
「インフレ目標の定義」
「量的緩和から所得拡大に至る道」
について、政治家は改めて考える必要があると思うのです。さもなければ、我が国は国民が貧困化し、インフレ目標がいつまでも達成できず、量的緩和は拡大し、株価のみがひたすら上昇していき、「資産と所得の乖離」が維持不可能なまでに拡大していくことになるでしょう。

三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015/3/18 号外より

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