テクノロジーで通信網は進化し、社内コストは削減できる
一方で、もう少し長期的な視野で考えてみましょう。
携帯キャリアの最大の財産は、膨大な契約数と全国を網羅する通信網=基地局です。これらは、5GやIoT(Internet of Things)が利用されるほど、なくてはならないものとなります。
例えば、自動運転車です。これには5Gが不可欠ですから、携帯電話にプラスして更なる契約数の追加が見込めるでしょう。1人で携帯電話と自動車の2契約が必要になるのです。
もう少し目先の話でも、5Gになるだけで契約料金を上げることができます。これまでも、3G→4Gとなるごとに料金を上げてきました。人々の生活からスマートフォンが切り離せなくなった以上、この値上げも受け入れられる可能性が高いと考えます。
つまり、5Gの投資は契約数の増加や料金の引き上げで回収できる可能性が高いのです。
なお、通信網の投資で最もコストが掛かるのが場所の確保ですが、既に基地局を確保しているので、その上にアンテナを立てれば良いということになります。ゼロから投資するのに比べたら、かなりコストが抑えられると計算できるのです。
加えて、私が着目しているのがコストの削減です。
ソフトバンクはAIやRPAを利用して業務を大幅に改善し、コストを削減すると宣言しています。これだけの会社の規模になると、コスト削減効果は計り知れません。
従業員が2万人いますから、例えばRPAを使えばこれを半分にすることも不可能ではないでしょう。平均年収が750万円ですから、1万人分減れば750億円です。営業利益6400億円に対するインパクトはかなり大きくなるでしょう。
もちろんすぐにとはいきませんが、徐々に効果が表れてくるでしょう。継続的な増益に貢献できるのなら、長期投資家としては言うことはありません。
リスクは有利子負債と親会社の動向。業績改善と高配当を継続できるか?
懸念されるリスクは、3.3兆円に及ぶ有利子負債でしょう。これまでもよく言えば借金を有効活用して規模を拡大してきました。
今後金利が上昇してくれば、利息の支払いに苦しむ可能性がありますが、私はその可能性は低いと考えています。低成長に甘んじる日本では「自然利子率」が低く、世界的な流れを見ても金利上昇の気配は漂っていません。
借金を淡々と返していけば、利息を減らすことができます。もっとも、この会社の傾向から行けば金利が低いうちは借り入れを増やしてでも拡大戦略を取る可能性も否定できませんが、それは今や親会社の役割になっています。
その親会社ですが、今でも議決権の6割超を握り、経営を掌握しています。良くも悪くもその意向次第です。
親会社にとって、携帯電話事業は貴重な収入源です。今後ファンドの投資を加速させたいでしょうから、ますます現金製造力に磨きをかけてくるでしょう。
子会社上場による株式売却でまとまった資金を確保しましたから、しばらくは売却を行わずに配当で資金を吸い上げるでしょう。そう考えると、85%と高い水準の配当性向は今後も維持される可能性が高いと言えます。
また、追加の売却に向けては、株価を上げることも大きな目的となります。そのためにも業績を上昇させることは至上命題なのです。
もちろん、一方では将来の株式売却による需給悪化懸念が残ります。したがって、短期的に大きな上昇を期待すべきではありません。業績改善努力と高い配当水準に期待した長期的な視点が求められます。
現在の配当利回りは、通期換算で6%です。配当性向85%が維持されるなら、業績向上によりさらに高い水準が期待できます。同時に業績悪化では配当も減少してしまいますが、長い目で見れば買い場を提供することになるとも取れます。
利回り6%は、国内では最高水準です。REITでもここに並ぶものは多くありません。忘れられた高配当銘柄として、今後の動向を注視したいと思います。
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2019年4月6日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による
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