「中国からの資金流出」本当の理由、BIS(国際決済銀行)の分析
BIS(国際決済銀行)の分析報告によると、中国の外貨準備175B$(20兆円)の流出は、投資家が逃げ出したのではなく、ドル高を見越した各企業が抱えるドル建て債務の返済を急いだ為であるとの報道です。
※China’s $175 Billion Outflow Wasn’t Investor Flight: BIS
報道のポイント
最新のBIS分析報告によると、2014年夏以降からの中国の資金流出は、投資家が中国資産を処分して逃げ出していると言うよりも、中国企業が米ドルの先行き高をを予想して、米ドル建て債務の繰り上げ返済を開始したために、米ドル価値が上がったと見ている。
BISの分析によると、この中国の資金流出には2つの異なる説明が存在している。
1つは投資家による中国本土資産の大量売却。もう1つは中国系企業の米ドル債務の返済繰り上げである。
BISの分析として選ぶとすれば、後者の説明を採用するが、両者の説明で欠落している部分を指摘しておきたい。それは中国国外での人民元預金の減少である。
BISの昨年12月時点での分析では、新興国群の借入額が急速に拡大し、海外から中国への資金流入が反転し、2015年7月~9月の第3四半期ではネットで175B$の減少となったが、その中の12B$のみが中央銀行からの流出であり、残りの163B$は企業からの流出であった。
中国の公的な外貨準備ではない、すなわち一般企業等からの流出額が163B$である。その中の4分の3である121B$が人民元建て預金の流出減少である。そのうち国外へ資本流出したのが80B$であった。
さらに中国系企業が海外の金融機関から借りた外貨建て債務の返済で34B$。同じく中国系企業が中国国内の金融機関から借りた外貨建て債務の返済で7B$であった。
2015年第4四半期も中国からの資金流出が続いているようである。中国国外の人民元預金の減少は緩やかになったものの、中国企業による外国通貨建て債務の返済は増加しているようである。2016年の2月までの動きは昨年の第2半期よりも多く、大きな問題になると予想される。
中国人民銀行は「人民元を安定したレベルに保つとの意思を宣言したが、その意味は、主要通貨に対して米ドルが上昇しており、その米ドルに対して人民元を弱含みのレベルに保つとの意味であり、こうなれば、中国国外の預金者は人民元建て預金を保有をせずに、さらに中国系企業は米ドル建て債務の返済を急ぐことになるだろう」とBISは分析している。
BISの分析報告
この報道の元となった、BISの分析報告を紹介します。
(ア)BIS報告書のオリジナル部分です。
(イ)桃色の棒グラフは中国国外での人民元建て預金の変化です。青色の折線グラフは中国人民元/米ドルの為替の変動チャートです。
(ウ)桃色の棒グラフは外貨建てローン債務残高-外貨建て預金残高です。返済を急いでいる様子が分かります。青色折線グラフは中国人民元/米ドルの為替変動チャートです。
外為市場では、かような、自分で自分の首を絞める現象が比較的高頻度で発生します。ドル高を見越して、ドル建て債務の返済を急ぐ。そのために人民元を売りドル買いをする。そうするとさらにドル高となり、周りも慌てて同じ行動をします。合成の誤謬です。
人民元の安定を願うのであれば、そして自国の外貨準備を守りたいと願うのであれば、焦らずに行動すべきなのですが、人間の心理としては、自分だけは安全に逃げ出したいと思うものです。もうこれは人間の消しがたい本能的な動きなのでしょう。
金融システムの崩壊も全く同じです。となれば、最初からリスク重視の観点で、誰よりも早く静かに準備行動をすべきです。
※太字はMONEY VOICE編集部による