中国依存のアメリカ国防システム〜2018年報告書の内容
2018年9月から10月にかけて、次の2つの報告書が発表された。
ひとつは、国防総省を中核とした各省庁の横断的なプロジェクトがまとめたもので、次は、米議会のリクエストにより、同じテーマを国防総省内の「国防戦略委員会」というチームがまとめた報告書だ。これについては当メルマガの第511回と第533回の記事でくわしく解説した。
・「合衆国の国防産業と製造業におけるサプライチェーンの弾力性調査とその強化に向けての報告書(Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain Resiliency of the United States)」
・「一般的な国防に備えて(Providing for the Common Defense)」
これらの報告書では、現在のアメリカの国防産業がグローバリゼーションによる製造業空洞化の影響を受け、兵器の生産能力が大きく衰えている実態が明らかになった。
ロシアや中国との間では、すでに300ほどの領域でアメリカの国防産業の劣化が進行しており、アメリカの国防産業は中国のサプライチェーンに依存しないと、すでに成り立たなくなっている状況になっていた。
また、アメリカの安全保障の基礎となり、アメリカの軍事的な覇権を支える最新ハイテク兵器のシステムは、どれも大量のレアメタルを使っている。特に第4次産業革命の進展で次世代のITテクノロジーが急速に発展するにつれ、レアメタルへの依存度は高くなっている。
しかし、現在のレアメタルの80%は中国が供給している。特に、レアメタルの鉱物種のひとつで、17種類のレアアースでは中国への依存度はさらに高く、90%に達している。レアアースそのものの埋蔵は中国だけではなく、ベトナム、ブラジル、ロシア、インド、オーストラリア、アメリカ、そして日本など各国で確認されているものの、レアアースを原材料として製品化できるレベルのテクノロジーは、実は中国に集中しているのが理由だ。
トランプ政権の中国敵視は当然の結果
これはアメリカの安全保障にとっては、深刻な状況である。このような状況を挽回するためにトランプ政権は、次のような政策に舵を切った。
1)保護貿易による国内製造業の保護
2)(インフラと軍事に対する)政府の公共投資を活発化
3)海外に移転した製造業の生産拠点を国内回帰させる
このようにして国内の製造業の基盤を再整備して、ロシアや中国を凌駕する強い国防産業を再建することを目標にしている。
これがトランプ政権が、中国を敵視するもっとも大きな理由だ。単なるハイテク覇権をめぐる争いではないのである。