2019年4月-9月の決算発表では、製造業を中心に下方修正が相次ぎました。それにもかかわらず、日経平均株価は年初来高値圏で推移しているのはなぜでしょうか。(『時事問題で楽しくマスター!使える会計知識』柴山政行)
相次ぐ下方修正にも株価は下がらず、予想PERは12倍から14倍へ
過去からの潤沢な留保利益を生かして、株主還元を充実
2019年4月-9月の決算発表において、製造業を中心に通期予想の引き下げが相次ぎました。下方修正額は2兆円を超え、20年3月期の純利益は前期比1割減となる見通しです。
※参考:下方修正でも増配、96社に 財務に余力で還元強化 PER14倍台に上昇‐日本経済新聞(2019年11月29日公開)
それにもかかわらず、日経平均株価は年初来高値圏で推移しています。ふつうは純利益が下がるとなれば、株価は下がるはずなのにどうしてでしょうか。
その主な理由のひとつは、配当政策にあります。
業績を下方修正しても増配する企業が96社あり、当期の利益は減少しても、過去からの留保利益が潤沢にあるため、その余力を生かして株主還元を充実させようという意図が背景にあるのですね。
たとえば、下方修正の中増配に踏み切った日本電産の永守重信会長は「配当増額は自信の表れだ」と語り、2021年3月期以降の業績回復へ自信を見せました。
2020年3月期は連結純利益の見通しを350億円引き下げ、一転して減益になりますが、年間の配当は5円積み増して10円とするそうです。
下方修正の理由として、電気自動車(EV)の基幹部品受注が増えることにともなう投資増加が挙げられており、来季の利益につながると判断されました。
ちなみに、同紙面では下方修正下で増配する企業の主な例として、次の5社を上げています。
JXTG 下方修正額1,650億円 増配額1円
三菱商事 下方修正額800億円 増配額7円
ホンダ 下方修正額700億円 増配額1円
日本電産 下方修正額350億円 増配額10円
パーソルHD 下方修正額162億円 増配額5円
日本企業の財務体質は従来の利益蓄積もあって依然として強固です。
バランスシートの利益剰余金は、上場企業(金融・日本郵政・新興・子会社上場を除く)全体で237兆円(9月末)と過去最高だそうです。現金預金と有価証券を合わせた手元資金も86兆円と過去最高の水準にあります。
株主還元の余力は大きですね。ただ、それは見方を変えれば、従業員への給与の支払いやその他の社会還元をやらずに社内に金を溜め込んでいたのでは?という意地悪な見方もできそうです。
こうした状況を背景として、株高が維持され、予想PERは決算発表が本格化する10月中旬の12倍台から14倍台まで上昇しています。ご参考までに、PER(Price Earnings Ratio)は株価収益率とも呼ばれ、株価÷一株当たり利益で計算されます。
利益の何年分で株が買われているかの指標ですね。高ければ高いほど、高い価格で株式投資をしていることになります。昨今の経済情勢からすると、おおむね13倍前後がめやすになるでしょうか。
利益が1万円ならば、株価は13万円という感じです。
ちなみに、利益÷株価は投資リターン率を表します。
1万円÷13万円=7.69…%ですね。
以上、業績下方修正にも関わらず、配当を増加する企業が増えているという時事ニュース記事をご紹介いたしました。
image by : Thitisan / Shutterstock.com
『時事問題で楽しくマスター!使える会計知識』(2019年12月5日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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