トランプの武力衝突さえ辞さないほどの現在の対中圧力の動機は、ズバリ米大統領選挙だ。選挙劣勢を挽回できる唯一の策が中国叩きである。実際に武力衝突まで発展することはありえるのか?選挙までのシナリオを解説したい。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2020年8月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
米中「記者追放」合戦へ
米中対立は緩和するどころか、日に日に激しさを増している。
トランプ政権は、アメリカ国内に駐在している中国人記者のビザを90日ごとに更新することを要求した。これまでは中国人記者のビザは、1回取得すると更新する必要がなかった。それを90日ごとの更新を要求することは、中国人記者の入国をアメリカが将来拒否する可能性を暗示している。
これに対し8月4日、中国共産党機関紙、「環球時報」の胡錫進編集長は、アメリカ駐在の中国人記者が全員国外退去を強いられた場合、中国は香港に駐在するアメリカ人記者を標的にすることも含めて対抗措置を講じるだろうとの見方も示した。
今度は記者の相互追放が起きそうだ。
またトランプ政権は、中国資本の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の使用をアメリカでは全面的に禁止する方針を明確にした。いまマイクロソフトが「TikTok」のアメリカ部門の買収を進めている。
トランプ政権は来月15日までに買収されなければ、「TikTok」のアメリカ国内の活動を禁止するとしている。
今回の米中対立の演出は「大統領選挙」目的
このように、トランプ政権が仕掛けた中国への強い圧力による米中対立は、一層激化している。
このまま行くと、どこかの地点で予期しない米中の武力衝突も否定できない状況になっているのではないかとの報道も多い。
しかし、トランプ政権が強化している中国への圧力は、中国との武力衝突さえ辞さないものなのかといえば、そうではない。もちろんすでに当メルマガでも書いたように、この圧力強化の背景には、中国との融和策を捨て、対決策へとシフトした米外交政策の基本的な転換があることは間違いない。
だが、この方針転換は10年から15年かけて中国の拡大を抑止する長期計画である。いまトランプ政権が進めている対中強行姿勢の直接的な動機になっているわけではない。
武力衝突さえ辞さないほどの現在の対中圧力の動機は、ズバリ米大統領選挙である。
現時点ではトランプに勝ち目なし?
新型コロナウイルスの対処失敗、大恐慌以来の経済の落ち込みなどが引き金となり、トランプとバイデンの支持率は大きく開きつつある。8月5日の時点で、バイデンは49.4%でトランプが42.0%だ。7.4ポイントの差である。2016年大統領選挙では、8月初旬の時点ではクリントンのリードは3.2ポイントだったので、バイデンとの差はこれよりも大きい。
アメリカの大統領選挙は各州に割り振られた選挙人の獲得数で決まるが、すでにいまの段階でバイデンの獲得が確実もしくはバイン寄りに傾いている選挙人は297人で、トランプ氏は170人に過ぎない。
当選するには270人以上を獲得しなければならないが、いまの時点でこれだけ差が開くと、トランプの勝利は難しいとも見られている。
またトランプは、ミシガン州やペンシルバニア州など「ラストベルト」と呼ばれる中東部の州で圧勝し、これが大統領選勝利の決め手になったが、今回は「ラストベルト」の州ではバイデンが圧倒的に優勢だ。
このように、いまの時点ではトランプに勝ち目はないと見たほうがよい。これを逆転するためには、よほどのウルトラCが必要になる。
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