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米中「武力衝突」は8月15日が分水嶺。日本を財布扱いするトランプの選挙戦略=高島康司

中国叩きの成果は「日韓にカネを出させる」こと

そして、トランプ政権の中国叩きが激化している最中、日本ではあまり報道されていないが、ある事態が進んでいる。それは、在韓米軍の削減計画である。

7月17日、アメリカの経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」は、トランプ政権は在韓米軍を含むアメリカ軍の海外展開の必要性をいま疑問視していて、国防総省がホワイトハウスに対し、韓国に駐留する2万8,500人の兵力を縮小する選択肢を提示したと伝えた。

すでにトランプ政権は、アメリカ軍の海外展開をめぐってドイツが十分な国防費を支出していないとして、現地に駐留するアメリカ軍を3万4,500人から2万5,000人まで減らした。

いまトランプ政権は、これまでの5倍の駐留経費を韓国に要求しているが、韓国はこれに強く反発している。今回の在韓米軍縮小の提案は、韓国に駐留経費の増加を飲ませるための圧力だと考えられる。

これと同じようにトランプ政権は、日本に駐留するアメリカ軍の経費についても負担の大幅な増額を求めている。ボルトン元補佐官によると、その増額分は85億ドル(8,500億円)になるという。これは現在の駐留経費の4倍程度である。日本との交渉は年内にも始まると見られているが、難航が予想されている。

こうした状況でトランプ政権が中国を強行に叩き、武力衝突さえ予感させる水準まで危機感を高めることは、韓国や日本からアメリカ軍の駐留経費の大幅な増額を勝ち取るための切り札になる可能性が大きい。東アジアではこれほど危機が高まっているのだから、米軍の増額した駐留経費を払うのは当然だろうという論理だ。

そして、もし日韓がトランプ政権の要求を受け入れて増額した駐留経費を支払うことに同意したのならば、トランプはこれを自分の大きな成果として訴え、支持率の上昇をねらうことができる。

トランプのねらいと落としどころ

このように見ると、いまトランプ政権が仕掛けている中国叩きは、大統領選挙の勝利を目的にしたものであることが分かる。それは次の3つのメリットをトランプにもたらす。

1)中国叩きで反中国の国内世論の期待に応える
2)日韓の米軍駐留経費を増大させ、成果とする
3)中国との貿易合意は維持し、経済関係は温存

この3つである。これによって自分の支持率を一気に上昇させ、新型コロナウイルスの対応で受けた痛手を挽回し、大統領選挙を勝利する。

中国のねらい

一方、トランプ政権のこのようなやり方は、習近平政権にもメリットがあることが分かる。それは次の3つだ。

1)愛国心の喚起
2)習近平政権の支持率上昇
3)トランプを大統領にするように後押しする

実はさまざまな記事を見ると、習近平政権は明らかにトランプの勝利を望んでいるようだ。

もちろん誰が大統領になったとしても、中国の拡大を抑止する対中強行策への方針転換は変わらない。これから10年くらいかけて、中国の拡大を阻む軍事的、経済的、政治的な体制を構築することだろう。

しかし、この過程では、アメリカの国益を重視した一時的な妥協もあるだろうし、緊張した関係になることもあるだろう。そのような過程を経つつ、長期的な冷戦体制ができ上がって行くものと思われる。

ということでは、いま起こっている中国叩きがそのままこうした長期的な冷戦体制の構築に直結するものとは考えにくい。むしろいまのトランプ政権の激しい中国叩きは、やはりトランプの大統領選挙勝利が目的だと思われる。

しかし、国際外交も含め、すべてをビジネスのディールとして処理するトランプであれば、冷戦体制構築に向けた長期的な計画よりも、目先の利益を優先し、中国と合意をする可能性がある。これは理念に基づく外交を主張する民主党のバイデンにはない特徴だ。中国にとっては有利である。

ということで、習近平政権はトランプを大統領として好み、支援する立場にあってもおかしくない。

Next: 8月15日が転換点に?米中「武力衝突」の行方は……

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