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米中「武力衝突」は8月15日が分水嶺。日本を財布扱いするトランプの選挙戦略=高島康司

トランプが中国を叩けば叩くほど支持率はアップ

では、トランプにはこのような劣勢を挽回できるウルトラCとなるような切り札はあるのだろうか?

実はそれが中国叩きである。いまアメリカでは、これまでにないほど中国に対する反発が強まっている。それは、いま自分たちが苦しんでいる新型コロナウイルスの蔓延が、中国の責任だと信じて疑わない米国民が多いからである。

アメリカの大手世論調査会社「ピュー・リサーチ」の調査では、73%の国民が中国に否定的な感情を持ち、肯定的な感情の国民はわずか22%たらずである。

過去に中国への反発が強まった時期はあるものの、好悪の感情でこれほどの開きがあったことは前例がない。トランプ政権が中国への一層強硬な姿勢を示したのは7月半ばだが、それ以来トランプの支持率は上昇している。40%の支持率が42%へと2ポイント上昇した。

これはつまり、トランプが中国を叩けば叩くほどトランプの支持率は上昇するということだ。

いま大統領選挙で追い詰められたトランプは、この中国叩きによる支持率回復に賭けている。その意味では、選挙が近づくほどトランプの中国叩きは一層強行になることは間違いない。

トランプが失えないもの、経済

一方、そのようなトランプがどれほど中国を強行に叩こうとも、越えてはならない一線がある。それは経済だ。

トランプには中東部の「ラストベルト」のほかに、強固な支持基盤があと2つある。

ひとつは、南西部の「バイブルベルト」と呼ばれるキリスト教、福音派の地域であり、もうひとつは中西部の農業地帯である。この2つを失うことはできない。

前者の「バイブルベルト」は宗教的な信念による支持なので、経済の変動で動くことは少ない。一方、後者の「中西部の農業地帯」のトランプ支持の背景は、基本的には経済である。だから変動する。

2018年3月から、トランプ政権による中国への高関税の適用で始まった米中貿易戦争は、今年の1月15日に貿易交渉の「第1段階の合意」で正式に文書に署名し、休戦した。合意内容は、中国が米製品の輸入を1.5倍に増やすことや、知的財産権の保護など7項目だ。2月にトランプ政権は、制裁関税の一部を下げた。中国による輸入拡大規模の内訳は次のようになっている。アメリカのモノとサービスの対中輸出額は1.5倍となる見込みだ。

1)工業品:777億ドル
2)液化天然ガスなどエネルギー:524億ドル
3)農畜産品:320億ドル

このなかでもトランプにとって特に重要なのは、(3)の320億ドル相当の農畜産品である。これを生産しているのはトランプの最重要の支持基盤のひとつである中西部だ。中国とのの合意が実現したおかげで、中西部のトランプ支持は強化された。

いま中西部の農業生産者は、トランプの中国叩きが激化するなかで、この「第1段階の合意」を中国が守るのかどうか固唾を飲んで見守っている。

いま中国は農畜産物の輸入を増大させてはいるものの、まだ合意した目標額の輸入には到達していない。中西部の農業新聞の記事を見ると、中国からは合意を履行するとのメッセージが来ているようだが、中西部の農業生産者は安心できないでいる。

もし万が一、米中対立の激化の余波で中国が合意を反故にした場合、中西部の農家にとって大きな問題となる。新型コロナウイルスの蔓延で経済が落ち込むなか、農畜産物の影響も大きい。中国かアメリカが合意を撤回すると、それは中西部の農業生産者にとっては死活問題となる。

そうした農畜産物の生産者が集中する中西部の恨みは、トランプに向かうことになる。これでトランプの大統領選の勝利ははるかに遠のくことになる。

「第1段階の合意」の破棄は、トランプが越えられない一線であることは間違いない。

Next: 中国叩きの成果は「日韓にカネを出させる」こと

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