三井住友カードがまったく新しいプラチナカードの発行を始めました。ポイント特化型プラチナカード「PLATINUM PREFERRED(プラチナプリファード)」です。今までのプラチナカードとどう違うのか。使えるカードなのか。クレジットカード研究歴30年のプロがメリットとデメリットを分析します。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
(※編注:2020年11月4日、一部内容を初出時より変更いたしました。三井住友カードと三井住友トラストクラブは同グループとして解説していましたが、別グループとなります。)
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消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
ポイント特化の新プラチナカードをクレジットカードの達人が診断
目次
- ステータスとポイント還元を両立、ターゲットは30代の働き盛り
- ポイント還元率は1%(特約店では最高9%)
- カード券面から「パルテノン宮殿」が消えた
- どちらが本物?プラチナカードが2種類に
- 富裕層向けカードの展開に自信
- 年会費3万3,000円ではコスパが悪い?
- 楽天カードやオリコのコスパの良さが際立つ
- ニューノーマルに適応した新しいサービスに期待
ステータスとポイント還元を両立、ターゲットは30代の働き盛り
三井住友カードがまったく新しいプラチナカードの発行を始めた。その名も、ポイント特化型プラチナカード「PLATINUM PREFERRED(プラチナプリファード)」だ。俳優の小栗旬を起用したテレビCMも流れていたので、見た人も多いことだろう。
その中で、小栗は「若手でもなく、古手でもない、現役バリバリのプレイヤーのためのカード誕生」とそのターゲットとなる客層を指し示している。ちょうど30歳代の小栗と同じ世代を取り込もうとしているようである。
働き盛りの彼らなら、ステータスを求めると同時にポイント獲得という実利も得ようとするから、ポイントに特化したプラチナカードを作っても人気になると読んでいるわけだ。
ポイント還元率は1%(特約店では最高9%)
実際、このカードのポイントサービスは非常に手厚い。
ポイントは1%の高還元率。しかも、入会するとさらに、新規入会&利用特典として、入会月の3カ月後までに40万円以上を利用すると4万ポイントがもらえる。また、毎年、前年100万円の利用ごとに1万ポイント、最大4万ポイントの継続特典もついてくるから至れり尽くせりだ。
それ以上に見逃せないのが、プリファードストア(特約店)でのポイント還元。特定加盟店で買い物すると、1〜9%相当のポイントが加算されるので、実際はこちらの方が目玉の特典だろう。
例えば、コンビニでは1〜2%、百貨店では2%、宿泊予約サイトでは6〜9%が加算される。ちなみに、これまでのプラチナカードの還元率は実質0.5%ということを考えれば、ポイント特化型の意味も納得できるところだ。
その他にも新機能は満載である。注目なのが、堅牢なセキュリティ機能だ。これまでカード表面に記載されていた16桁のカード番号と有効期限などがカード裏面に回り、第三者の目に触れにくいところにまとめられた。個人情報を裏側に移したことで、不正利用のリスクを減らそうという心遣いである。
また、コロナ感染対策として、Visaのタッチ決済を採用しているので、決済も端末に触れることなく終えることができる。安心・安全もバッチリである。
カード券面から「パルテノン宮殿」が消えた
それにしても、三井住友カード全体の戦略からみて、このカードがどういう位置づけにあるのか。なぜ今頃このプラチナカードが出てきたのか、それがよくわからない。
実のことをいうと三井住友カードは数年前、30年ぶりに自社発行のクレジットカードの全面リニューアルを行っている。その総仕上げとなったのがこのプラチナカードといえる。
最初に手がけたのはレギュラーカードの改革だった。この時はまず、カード券面にあった三井住友カードのシンボルといわれたパルテノン宮殿の絵柄を外してしまった。これは大英断であったが、当然この処置には眉をしかめる向きが多かった。「大銀行のステータスのシンボルを自ら取り下げるなんて何てバカなことをするのか」という意見であった。しかし、三井住友カードは、それをあえて断行し、カード券面の余計な装飾を取り去り、単色のシンプルな色とデザインに変えてしまったのだ。
そして、さらにすでに述べたように、カード券面中央にあった16桁のカード番号や有効期限等の数字はすべて裏面の片隅にまとめられた。それによってカード表面はすべすべになりスタイリッシュな印象を強く与えることとなった。
しかしその一方で、単色の色合い、デザインがまるでキャッシュカードのようだとの印象を与えて、とくに、年配者たちには不評であった。
この大胆なリニューアルが、いよいよ上位のプラチナカードにも断行されることとなったのである。それが今回の動きだ。そして、それが三井住友カードの新しいクレジットカードのラインナップの誕生を意味することとなったのである。
どちらが本物?プラチナカードが2種類に
ただここで注意したいのは、この結果、プラチナカードが2種類できてしまったことだ。
このリニューアルの思想のもとに新しいプラチナカードを作ったわけだが、その前から出ていたプラチナカードもそのまま生かして継続発行となっている。
こちらは「三井住友プラチナカード」という正統派のプラチナカードである。Visaとマスターカードの2つの国際ブランドが用意されている。年会費5万5,000円の重厚なもので、例えばレストランで1名分が無料となる「ダイニングby招待日和」というサービスがあったり、国際手荷物無料宅配など、本来のプラチナサービスを用意している。
一方の小栗旬のプラチナは、年会費3万3,000円と2万円ほど安くなっている。そしてこちらはどちらかというと30代のアクティブユーザ向けのカードとなっている。
差別化を図るためにポイントに特化し、不要なものはほとんど外している。軽量をアピールしたカードとしている(だから海外旅行傷害保険も付いていることは付いているが、最大1億円補償してくれる従来型プラチナに比べると、最大でも3,000万円と見劣りする)。
三井住友カードとすると、プリファードプラチナで将来有望な中堅世代をしっかりと捉え、さらに今までの50代60代の重役や富裕層を正統な三井住友プラチナカードでしっかり取り込もうという欲張りな戦略に出たと言えるだろう。
しかし、一般のカード会社が2種類のプラチナカードを同時に出し続けるというのは、やさしいことではない。三井住友カードが唐突にこうした手間のかかる動きを始めたのは何故なのか。
富裕層向けカードの展開に自信
三井住友カードはVisaのブランドを生かしながら、その伝統を背景にして全方位的な展開をつづけてきている。上級カードのノウハウも各方面から集め、蓄積しつつプラチナカードの魅力づくりを進めてきている。
今回はそうしたノウハウを十分に蓄え、富裕層向けカードの展開に自信をつけたがために、2種類のカードを発行できると判断したのだろう。
三井住友カードは、いま、メガバンク間の厳しいカード戦争の中でも、一歩も二歩も先を行くことができている。そのアイディアといいその規模といい、まさにリーダーの名にふさわしい動きを見せている。
それができるのも、長期的なスパンのクレジットカード戦略をもっているからだろう。
年会費3万3,000円ではコスパが悪い?
しかし、これは社内的には高い評価を得られるだろうが、一般消費者向けにはどうだろうか。
このカードは単体で見た場合は、完璧なプラチナカードとは言えない。やはりどこか中途半端である。ポイント特化型と言う「枷(かせ)」がある限り、歪んでしまうのは仕方がないことではあろう。しかし、消費者にとってはそこが不安であるのだ。
やはりコストパフォーマンスが悪い。常識的には年会費3万3,000円を払っていながら、ポイント還元率の1%はいかがなものであろうか。3%くらいは欲しいところである。幸い、コンビニや、ホテルなどの宿泊、交通機関の特定加盟店で利用すれば1%から9%まで加算されるプリファードのサービスがあるけれども、これをいざ利用しようとすると、様々な条件があって対象外となるものが多いのである。ここが悩みのタネである。
例えば、セブンイレブンがそうである。2%のポイントが貯まることにはなっているが、百貨店やショッピングセンターやガソリンスタンドなどの施設内にあるセブンイレブンは対象外となってしまう。街に出かけると意外に多くのセブンイレブンがそうした施設内で出店している。
2%の還元が受けられると思って飛び込んでも、対象外と言われてしまうとショックは大きいものだ。こうしたことが重なれば、カードの評判にも響いてくるだろう。
ポイント特化型を謳うのであれば、最初にそうしたインフラの障害を取り払ってからにしてほしいものである。これはコンビニだけでなくネットショッピングでも同じことが言えて、特定のサイト経由といった場合は対象外になったりする。
楽天カードやオリコのコスパの良さが際立つ
三井住友カードが発行している「Visa LINE Payカード」の時もそうであった。
LINEのポイントとの連携が不十分で、いろいろ問題が起きていた。その時と同じく、サービスのオープンを焦るあまりに十分な準備をしないで取り掛かってしまうから、こうしたことが起きるのではないだろうか。これが三井住友カードの大きな問題点であると言ったら、言い過ぎであろうか。
次に、同じ高級カードで比較してコスパを考えてみよう。楽天のカードも1%の還元率がある。特に楽天プレミアムは年会費1万1,000円でポイント還元率は1〜5%もある。しかも、高級な空港ラウンジが使えるプライオリティーパスも装備している。ポイントもたくさん付く。楽天市場で買い物すれば、最大10倍といったポイントも集めることができる(キャンペーンによって異なる)。年会費3万3,000円を払っても1%のポイント還元しかなく、頼りの特約店もハードルが高い三井住友プリファードプラチナカードに比べれば、断然に優位だろう。
同じ銀行系カードで比べてみよう。最近登場した「みずほマイレージクラブカード/THE POINT」が良いだろう。これはベースになっているのがオリコの「THE POINT」という人気のカードだが、それにみずほのキャッシュカードがドッキングしている。高級カードではないが、ポイント還元率1%ながら年会費は無料である。しかも、ポイントの貯まりが早いうえに、ポイント交換もリアルタイムでできて非常に便利である。これが年会費無料なのだから、みずほに口座を持つ人ならこのカードを選んでしまうだろう。
こうした優良なカードがたくさんある中で、とくに三井住友カードのプリファードプラチナの方が優れているかと言うと、ちょっと疑問符がつくだろう。
ニューノーマルに適応した新しいサービスに期待
さらに、社内ヒエラルキーに熱中するあまりに、外の世界に無警戒になっていはしないか。
外はコロナが大流行している。人々の生活はウィズコロナで大きく変化しつつある。ところがこのカードはコロナ対応はVisaのタッチ決済くらいで、中身の特典にまでは届いていない。ニューノーマルに適応したサービスがまだ作れていない。
このカードの特典のほとんどは、ポイント関連と海外国内旅行傷害保険と空港ラウンジ利用といった、T&E(旅と娯楽)の古いサービスの概念にあぐらをかいている状況である。
この辺は、早く同じ上級カードの部類にある他社のプラチナカードのコロナ対策サービスを参考にすべきではないだろうか。運動不足の男性に対していろいろなトレーニングの方法を動画で流してくれたりしている。先進的なカード会社はどんどん取り組みを始めている。
もう少し外の世界に反応した新しいサービスをやって欲しいというのが、私の望みである。言い換えると、イメージ先行で中身がまだついてきていないというのが結論である。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年11月1日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。