顧客注文を次々と受けるディーラー(FX会社)側の損益はどうなっている?
前回は、顧客から受けた注文を適切にインターバンク市場に投げてカバー取引を行うのがディーラーの役割であると書きました。顧客の損益はレート変化とスプレッドで決まる単純なものですが、では顧客とは逆にディーラー側の損益がどうなるかを見てみます。
ディーラーは多数の顧客を抱えていますし、筆者が実際に某FX会社の案件で見た例ではドル/円の顧客取引が1日2万件に達しているものがありました。これは、平均して4秒に1回注文が入ることになります。注文の多い時間帯では1~2秒に1回になるので、ディーラー業務を手動で行うのは非常に忙しくなります。レートの動きだけでなく、顧客の注文動向も頭に入れて意思決定しなければいけません!
例えば、以下のような具合に次々に状況が変化します。
全くレートが動かない状態でシミュレートすると――
話をシンプルにするために、
- 全くレートが動かない(ASK=108.00, BID=107.99)
- インターバンク市場のことはまだ考慮しない
と仮定します。
するとディーラーの損益状況は以下のようになります。
「未カバー数量」とは、顧客からの注文を受けて約定させたあと、まだインターバンク市場に流していない数量ということです。ディーラーがマーケットに対して取っているポジションの量ともいえます。
この例では、同一の時刻「10:00:00」に別々の顧客から反対向きの注文を2つ受けたので、スプレッドの分だけが丸ごとディーラーの利益になります。ここは重要なポイントです。
顧客AとBはもちろんお互いのことを全く知らず、提示されているASKとBIDレートに注文を出しただけですが、ディーラー側はその2つの注文を相殺して差額のスプレッドを利益とすることができるのです。
もちろん、現実には「レートが全く動かない」ということはないですし、顧客AとBのように反対向きの注文で潰しあってくれず同一方向の注文が次々とやってきてポジションが積みあがることも多いので非現実的な仮定ではありますが、スプレッドがディーラーの利益の源泉であることは感覚としてつかめたのではないでしょうか?
これだけだとディーラーは寝てるだけで儲かり続けるような印象がありますが、それは「レートが動かない」というやや無理のある仮定をおいていたからです。もちろん現実にはそうではなく、レートが動くときには機敏な判断が求められます。
次回はインターバンク市場への注文が関係する場合や、レートが動く場合にどうなるかを書きたいと思います。
岡嶋大介(ソフトウェア作家兼投機家)
株式会社ラガルト・テクノロジー
「ラガルト」はスペイン語で「とかげ」です。2005年10月に、私がバルセロナに旅行したときに訪れたグエル公園の有名な像を見て思いつきました(この像はとかげじゃなくて蛙という説もあるのですがまあいいですよね)。この会社は、どちらかというと私の個人的な活動を下支えする色彩が強いので、自分の気に入ったものを使って命名しようと思いました。この他、最近は更新が滞りがちですが、個人のtwitterアカウント、blogがそれぞれあります。