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なぜバイデン勝利確定を無視して暴挙に?トランプを操る勢力の狙い=高島康司

「草の根」と「超富裕層」2種類のリバタリアン

ところで、超富裕層のリバタリアンという表現をすると違和感を感じる読者もいるかもしれない。筆者にもリバタリアンとは市民による草の根の運動なので、超富裕層がなぜリバタリアンなのかピンとこないというメールをいくつかもらった。理解できる質問だ。

実は、リバタリニズムはその思想を支持する社会階層によって、2種類あると考えたほうがよいだろう。

ひとつは、もともとアメリカ社会のなかに根強く存在している草の根のリバタリニズムだ。これは、連邦政府の介入をすべて拒否し、政治や経済など社会にかかわるすべてのことは、地域共同体にゆだねることを主張する共同体主義の思想だ。こうしたリバタリアンは、住民が民兵となって武装し、共同体を外敵の侵入から守ることを主張している。共同体の権利を脅かす大きな連邦政府の存在は認めていない。

こうした共同体主義の草の根リバタリアンには、異民族や異教徒を排除して、ユダヤ・キリスト教の原理に基づく白人だけの社会構築を目標にした白人至上主義者や、聖書の原理に忠実に基づいた社会を追求するキリスト教原理主義の福音派の集団とも強い親和性がある。どちらの集団も、大きな力を持つ強い連邦政府の存在を脅威として考え、それに抵抗することでは、リバタリアンと同様の信条を持つ。

一方、超富裕層のリバタリアンは、連邦政府の弱体化ないしは解体という点では草の根のリバタリアンと一致するものの、その後に実現させるべき社会として彼らが考えているのは、企業活動への一切の規制のない純粋な市場原理が支配する社会だ。

ヘイトグループを支援する超富裕層のリバタリアン

こうした相違は存在するものの、両者には興味深い関係がある。超富裕層のリバタリアンが、自分たちが理想とするアジェンダを実行する道具として、草の根のリバタリアンや白人至上主義を利用するという関係だ。資金の流れを探ると、こうした関係がはっきりと見えてくる。

「ドナーズトラスト(DonorsTrust)」という財団がある。ここは富裕層からの献金を得て、それをリバタリアンや保守系の団体や組織に資金提供するための財団だ。献金者の名前を公表する法的な義務がないので、ダークマネーのATMと呼ばれている。

しかし、誰が献金しているのかは明らかになっている。それらは、「サラ・スカイフ財団」や「マーサー財団」などの大きな財団が中心だった。ちなみに「ザ・サラ・スカイフ財団」とは、ティモシー・メロンが総帥の「メロン財閥」の一族であるサラ・メロン・スカイフが設立したリバタリアンの財団である。

また「マーサー財団」は、前回の記事で解説した大手ヘッジファンドの「ルネサンス・テクノロジーズ」の代表、ロバート・マーサーとその娘のレベッカ・マーサーの財団である。マーサー父娘はコーク一族以上に過激なリバタリアンだ。市場原理とユダヤ・キリスト教の原理が支配する白人を中心とした社会を夢想している。

また、「アドルフ・クアーズ財団」もある。これは日本でもよく知られているビールの「クアーズ」の創業者が設立した財団だ。やはりユダヤ・キリストの倫理と規制のない市場原理に基づく社会の構築を目指すリバタリアンの財団だ。

彼らは、「ドナーズトラスト」を通じて莫大な資金を、イスラム教を激しく攻撃する団体や、反LGBTの団体、さらに白人至上主義の団体に献金していた。ちなみに「ザ・サラ・スカイフ財団」は、2014年から2018年にかけて、4つの過激なヘイトグループに400万ドルを寄付している。

また「アドルフ・クアーズ財団」は、同じ期間に420万ドルを寄付している。そのうちの一部は、反イスラム主義を標榜し、ユダヤ・キリスト教の原理の擁護を主張する極右の組織、「デビッド・ホロウイッツ・フリーダム・センター」に寄付している。そして「マーサー財団」だが、1090万ドルを反イスラムのヘイトグループなどに寄付している。

トランプ政権が発足した2017年以降、露骨な人種差別の白人至上主義者や、反イスラムを主張し、移民を排斥するヘイトグループ、そして白人の共同体の自己防衛の権利を標榜する武装した民兵組織など、これまで政治の主流から排除されてきた過激な集団や組織が一斉に現れた。彼らはみんなトランプの熱烈な支持者だった。

こうした集団が、トランプが就任するといきなり出現したことに強い違和感を感じた。オバマ政権のときは、こうした集団の活動はほとんど目立たなかった。むしろ目立っていたのは「ティーパーティー運動」だった。しかしトランプ政権になったとたん、あれほど拡大していた「ティーパーティー運動」は一気に陰を潜め、反対に過激なヘイトグループが出現したのだ。これは驚きであった。

前回の記事にも書いたように、「ティーパーティー運動」は、コーク一族が資金を提供して始まった運動であった。全米300カ所に運動拠点を作り、そこに訓練されたプロの運動員を多数配置した。「ティーパーティー運動」はそのようにしてコーク一族が組織したことは、いまは明らかになっている。このような過去の事例を見ると、トランプ政権の発足から突然と出現した多くのヘイトグループも、やはりリバタリアンの超富裕層の資金提供によって活性化した運動と見て間違いないだろう。

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