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もう習近平は韓国を脅せない。日米韓の中国包囲網を崩すカードは台湾・尖閣侵攻のみか=勝又壽良

韓国の半導体技術に惹かれて

中国が、米韓共同声明について正式反応しないのは、指導部で検討しているという見方もある。日本在住の中国人学者によれば、「米国の対中包囲網は効力がない。中国は科学技術など着々と手を打っている」と豪語している。これは、口先だけの話であり、それを裏付ける証拠は何もないのだ。仮に裏付けがあるとすれば、韓国が米国寄り姿勢を強めた以上、THAAD問題よりも強く反応して当然である。それが、沈黙しているのである。

考えられる理由は、韓国企業による海外での半導体投資が、さらに中国を回避して米国などへ集中することを恐れていることであろう。これは、中国で行なわれてもおかしくない半導体投資が、米国へ流れることを意味する。これによって、中国での半導体生産が減って、中国の雇用が増えないというマイナスの影響を被るのである。

半導体は、21世紀最大の「戦略物資」である。中国が、自国企業に依存する低い自給率(現状では10%程度)に悩んでいることから推測して、韓国へ新たな報復を科すゆとりをなくしていると見るべきだ。

前記の、半導体自給率について若干の説明を加えたい。中国の自給率は、中国企業と外資企業の半導体生産で計算される。このうち、中国企業分が前述の通り10%、これに外資企業生産分の10%が加わり、合計の自給率は20%になる。残り80%は輸入依存である。中国が「半導体後進国」であるのは、紛う方なき事実なのだ。

戦前の日本は、当時の戦略物資である「鉄鋼」と「石油」を自給できずに米英と開戦した。中国は現在、半導体自給が不可能な中で、米国と開戦する構えの雰囲気を臭わせている。日本の例からも分かるように、現在の中国は極めて危険なコースを歩んでいる。中国はここで、戦闘状態に突入すれば、緒戦はともかく長期戦に備える経済力を持っていないのだ。

恒常的な生産性低下の落し穴

不吉な話だが、戦争は武器だけ揃っていればそれで勝利できるわけでない。戦争を支える経済力を備えていることが勝利の方程式となる。

そこで、米中の経済力を見ておくことが重要である。製造業を主体とした生産性が、どれだけあるかという問題にも帰着する。

生産性は、経済用語を使えば「限界資本係数」という言葉に表わされている。言葉は小難しいが、医学用語と一緒で説明を聞けば、「なんだ、そんなことか」と納得するあの感じだ。「限界資本係数」とは、設備投資などがどれだけの実質GDP成長率をもたらしたかというもの。自動車のエンジンで言えば、「燃費の良さ」に該当する。

中国の「限界資本係数」は、驚くことに一貫して悪化しているのだ。これは、設備投資やインフラ投資など総資本形成が増える一方なのに、実質GDP成長率が低下しているのである。人間の身体に喩えれば、加齢化とともに体重が増えても、体力はそれに反比例して低下する状態だ。中国経済は、まさにこの状態に落ち込んでいる。

次に、中国と米国の「限界資本係数」を示したい。括弧内は、製造業実質GDP成長率を示す。限界資本係数の算出は、私が行なった。計算式は、データ末尾に示した。

      中  国       米  国
2010年:4.41(13.26%)  7.32(5.41%)
2011年:4.92(9.84%)  12.32(0.37%)
2012年:5.87(8.91%)   8.98(-0.65%)
2013年:5.97(7.57%)  11.09(3.07%)
2014年:6.18(6.59%)   8.22(1.71%)
2015年:6.15(5.84%)   6.87(1.40%)
2016年:6.20(5.63%)  11.93(-0.78%)
2017年:6.18(6.21%)   8.81(2.55%)
2018年:6.50(6.12%)   7.01(4.24%)
2019年:7.43(5.64%)   9.72(1.96%)

注:限界資本係数は、総固定資本形成の対名目GDP比を実質GDP成長率で割ったもの。係数が大きくなるほど投資効率は低下する(資料出所:原データは国連統計)。

「肥満型体質」に陥る中国、韓国を脅す力はもう無い

このデータの示す結論を下記のように要約したい。先ず、中国である。

1)中国の限界資本係数は、2010年が4.41であったものが、2019年には7.43に上昇している。これは、景気下支えで設備投資やインフラ投資を行なっても、それに見合った生産性(実質GDP成長率)をもたらさなかったことを示している。つまり、過剰投資を招いており、「贅肉」がつくだけの肥満型体質に陥っている。

2)これは、成人病を併発する危険性のシグナルである。この裏には、括弧内に示したように製造業の実質GDP成長率が低下していることに現れている。2010年の製造業実質GDP成長率は、13.26%であった。それが、2019年には5.64%にまで低下している。

3)ここから結論になる。過去10年間の傾向から今後、生産性はさらに低下することは間違いない。つまり、限界資本係数が上昇するだろうということだ。これは、米国の限界資本係数を上回って、低生産性に陥る危険性を示唆している。

米国経済を抜くと豪語してきた中国だが、足元を見ると逆回転が始まっている。ここで痛手になるのは、韓国の半導体投資が中国へ向かわずに米国へ向かうことだ。中国にとっては、「泣くにも泣けない」事態が起っているのである。

これでは、韓国を脅迫できるはずがない。韓国にすがりつくところである。

Next: 自分で自分の首を締める中国。米国が独走する日は近い

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