米中で二分された世界
この行動に対し、ドイツのメルケル首相は賛同を意思を表明した。「米大統領にバイデン氏が就任したことで新たなページが開かれた」とし、「サイバー空間における脅威のほか、ロシアとの結託などを踏まえると、中国を看過するわけにはいかない」として、中国を潜在的な脅威として見なすことが重要になるとした。
ただし、「過度に評価してはならない。適切なバランスを見出す必要がある」とした。ドイツとしては、有力な輸出先である中国と経済的なつながりは維持したい。この点では、ドイツも苦しい面がある。上手く大人の対応をするしかないだろう。
一方、NATOのストルテンベルグ事務総長は、米国のスタンスに賛同を示している。「バルト海からアフリカに至る地域で中国が軍事的な存在感を拡大させていることは、核抑止力を持つNATOが準備を整えておく必要があることを示している」としている。
そのうえで、「中国はわれわれに迫っている。サイバー空間のほか、アフリカでも存在感を増大させているが、これに加え、われわれの重大なインフラに対しても大規模な投資を実施している」とし、「われわれは同盟として、こうした事態に共に対応しなくてはならない」としている。
また、今回の首脳会議で加盟国がNATO共通予算への拠出を増加させることで合意したことも明らかにしている。今後の中国の脅威に対し、資金面でも準備を進める意思を示したことは、中国の暴走の抑止力になるだろう。
弱体化するロシア
一方、NATO首脳はロシアについても懸念を示している。
リトアニアのナウセーダ大統領は、「ロシアはベラルーシを呑み込もうとしている」と批判し、「NATOはロシア抑止に向け団結する必要がある」としている。バルト3国はロシア抑止に向け、米駐留軍の増加を呼び掛けるとしている。
バルト3国からすれば、切実な問題であろう。これ以上の乗っ取りは許せない。ロシアのこれ以上の介入は看過できないのである。これは米国も同じである。バイデン政権になってから、この方向性は明確になってきた。ロシアの弱体化はますます進むだろう。
プーチン大統領の後継者問題は頭の痛い問題である。プーチン氏もいずれは禅譲せざるを得ない。死ぬまで現在のポジションに居続けるのも無理がある。後継者もいない。ロシアの問題はかなり根深いだろう。
中国の話をしていたのだが、気づいたらロシアの話になっていた。せっかくなので、ロシアについて、もう少し考えてみる。
プーチン氏は後継者計画に関して、「自身に批判的であっても、ロシアに忠誠心があると判断できれば、支持する用意がある」との認識を示している。しかし、これは明らかに表向きの発言である。それにしても、これほどまでに旧態依然とした国家体制がいまだに存在することに、驚かざるを得ない。
そのプーチン氏は、バイデン大統領に警戒感を示している。「バイデン氏は長年の政治経験があり、トランプ氏とは根本的に異なる」とした上で、「バイデン氏が衝動的な行動に出ず、コミュニケーションに関し、一定のルールを順守し、何らかの分野で合意できることに期待を寄せる」としている。
また、ロシアが米国に対しサイバー戦争を仕掛けているかという質問に対しては、「証拠はどこにあるのか?」とし、根拠のない非難として一蹴した。証拠が出ないようにやっているのだから、プーチン氏が言うのも無理はない。それだけロシアのサイバー攻撃の技術は優れているといえる。
ロシアは米国にとって、非常に手ごわい相手である。そう簡単に取り込むことはできない。しかし、その必要もないだろう。プーチン政権の長期化は、結果的に自らの首を絞めたといえる。ロシアの不安定化が、中国にも大きな影響を与えることは言うまでもない。
一方、米国、英国、カナダ、EUは、ベラルーシ政権による人権侵害と民主主義抑圧に対抗するため、ベラルーシへの制裁を発動したと発表している。共同声明では、ベラルーシに対し「自国民に対する抑圧」をやめるよう呼び掛けた。さらに、ルカシェンコ大統領に対し、5月23日に発生したライアンエア機の強制着陸に関する国際調査に協力するよう求めている。
米財務省は、ルカシェンコ大統領の側近や大統領報道官、上院議長など16人の個人と5団体に制裁を行っている。「暴力と抑圧のエスカレーション」に対する措置とし、これにはライアンエアが運航する民間機を強制着陸させ反体制派ジャーナリストを拘束したことも含まれると表明した。
また、EUは外相理事会で、ベラルーシ当局者やロシアの富豪ミハイル・グツェリエフ氏など78人と7団体に対する渡航禁止と資産凍結を決定。豪州のシャラー外相は「国家による空の海賊行為という無慈悲な行為の結果、われわれはねじを締めなければならない。ベラルーシの国民ではなく国家の経済部門を標的にする」としている。
このように苦肉の策を講じながらも、西側諸国はロシアへの圧力をかけ続けている。決定的な打撃を与えることはなかなかできていないが、徐々にダメージが広がっていくだろう。
プーチン氏はかなりしぶとく、そう簡単には倒れないだろう。しかし、人間はいずれこの世からいなくなる。プーチン氏もいずれはそうなる。そのときがロシアの終わりであろう。