石炭依存から抜け出せぬ中国
また、柔軟性のない電力市場や価格システムに起因する中国の構造的な石炭依存によって、企業の再生可能エネルギー調達も難しくなっているという。
地方政府は雇用や経済的な利益の確保を求めており、多くの企業が電力を石炭火力発電所から購入するしかない。馬氏は「再生可能エネルギーを本当に機能させたいのであれば、より多くの支援が必要であり、さらに電力システム全体を変える必要がある」としている。
これまでは国がすべて負担しておけばよかったのだが、それを徐々に民間に卸していった。しかし、構造上の問題が中国には存在する。それが露呈したのが今回の脱炭素の問題なのである。
中国政府は、これらの状況が国民に悪影響を与える事態になるのを異常なまでに恐れている。そのため、需要急増に備えて生活必需品の備蓄を家庭で確保しておくよう促すなど、あらかじめ冬に向けた十分な食料供給確保を勧めている。
また、地方当局にも供給確保や価格安定に向けた対応を求めている。保管できる野菜の購入など準備を行うとともに、円滑で効率的な流通を確実にするため緊急輸送網の強化も検討すべきとしている。
中国では異例の大雨で野菜の価格が高騰しており、中国政府は調達が困難になる事態を避けるべきとのスタンスである。それだけ事態は悪化しているということである。
気候変動対策で米中協力?利害は一致するのか
そんな中国の内政だが、一方で驚くべき報道が飛び込んできた。
米中両政府が10日、COP26で、2020年代に気候変動対策で協力関係を強化する共同宣言を発表したのである。
これまで外交的に対立を深めてきた両国の共同宣言は異例といえる。米中は温室効果ガスの世界1位・2位の排出国であり、大詰めを迎えたCOP26の議論で進展機運が高まるとの期待が膨らんだ。
共同宣言では「米中は壊滅的な影響を回避するため、重要な10年間にそれぞれの行動を加速させるとともに、多国間プロセスの協力を通じ、この危機に取り組むと約束する」と表明した。これだけでも驚きである。
さらに、温暖化対策の国際合意「パリ協定」に関して、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える協定の目標に言及し、達成のために30年時点の温室ガス削減目標や、より長期の目標を引き上げる可能性も示唆したのである。
具体的には、再生可能エネルギーの普及や電力部門の脱炭素化、米国が主導する温室ガスの一種であるメタンの排出削減などで協力するという。
さらに共同で作業部会を設置して定期的に会合を開き、今後10年間の具体的な行動に関して意見交換することでも一致したという。これはかなり画期的な内容である。
米中に政治的な結びつきを期待するのは難しいが、こと経済面では可能である。そのあたりまでにらんでの合意であろう。
中国の解振華・気候変動特使は「米中が協力して重要な成果を挙げられれば、両国だけでなく、世界全体にも良い影響をもたらす」としている。なかなか柔軟な発想である。
一方、ケリー米大統領特使も「米中は相違点に事欠かないが、気候変動対策では協力こそが唯一の道だ」としている。米国も気候問題に関しては柔軟である。
とはいえ、今回の共同声明には具体策が書かれていない。したがって、今後の両国の取り組みから目が離せない。