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日本「年収30年横ばい」の黒幕は内部留保。労働生産性に見合った賃金を払わぬ大企業の罪=勝又壽良

「物価上昇は悪」という刷り込み

先に、「低物価・低金利・低成長・低失業」が4点セットになっていると指摘した。これは、日本的経営の特色を100%表している。日本企業が、名目GDPの約90%にも相当する内部留保を抱えていることの必然的結果だ。誤解ないように指摘したいが、名目GDPはフロー概念であり、内部留保はストック概念である。単なる比較論で言っているだけである。

日本の消費者物価上昇率(前年同月比)は、1993年以来、2008年夏場の2ヶ月をのぞけば、2%を超えたことがない「超安定状態」である。消費者物価が上昇しても、必ず「0%」に引き戻されるほど、このラインが強い吸引力を持っていることが分かる。これには、次に述べるような「メカニズム」が、消費者の中に出来上がっているのでないかと思わせるほどである。

所得上昇率が低いという事情があるものの、「物価上昇は悪」という認識を決定的に刷り込ませてしまっていることだ。

過去、消費税率引き上げのとたんに景気を冷やしたのは、この「物価上昇は悪」というイメージに逆らったからである。賃上げ率を上まわる消費税率引き上げは、消費者にとって容認しがたいことなのだ。

現状の低い賃金引き上げ率が続くならば、今後の消費税引き上げは絶望と見たほうがよい。

政府が将来、消費税率引き上げを考えているとしたら、生産性に見合った賃上げルールを確立して実行することが大前提になる。

消費税率を引き上げられるほどの体力(賃金引き上げ率)を持つ日本経済へ回復させるには、賃上げルールをどのように確立するかである。

政府が、民間企業の賃上げに干渉することは不可能である。だが、望ましい経済運営に当っては、労働生産性上昇率に見合った賃上げが不可欠である。

税制で、その誘導策をいかに設けるかである。政府は、労使の自主交渉を見守りながら適正に誘導する政策手腕が問われる。

岸田政権は、労働分配率問題に触れているので、そのルートを早く示すべきである。

働きに見合う賃金が必要

労働分配率という言葉を使うと、何か労働運動推奨のような雰囲気になりそうだが、そうではない。自分が働いた成果である労働生産性に対して、どれだけの賃金を貰ったかという問題である。

むろん、100%は不可能である。企業の拡大再生産に必要な利益を残さなければならない。一方、分配率が下がれば労働者の所得が減って消費が減り、経済循環がスムーズに行かなくなるというのも現実である。

こういうバランスを考えると、適正分配率があるはずである。その適正分配率がどこにあるかを次のデータによって探り当てたい。

 労働生産性 平均年収 労働分配率
1991年:61.382ドル 39.939ドル 65.06%
1995年:62.865ドル 40.543ドル 64.49%
2000年:66.639ドル 41.004ドル 61.53%
2005年:71.416ドル 41.553ドル 58.18%
2010年:72.372ドル 40.705ドル 56.24%
2015年:75.035ドル 39.828ドル 53.07%
2019年:75.384ドル 41.726ドル 55.35%
※出所:労働生産性はILO、平均年収はOECD、労働分配率は筆者試算

ドル換算であるから、円相場の変動を反映するが、労働分配率の計算に支障はない。

このデータを見て気付くことは、バブル経済崩壊の後遺症がはっきり表面化してきた2000年以降、労働分配率が顕著な低下を見せたことである。労使協調を合い言葉に「企業防衛」を最優先した結果が、このような分配率低下をもたらしたのである。

労働側は、雇用確保が最大のテーマになったので、賃上げ闘争をしない大企業労組も目立った。この賃上げ自粛は、労働側に「一時避難」でなく、労働運動そのものを放棄させるという思わざる方向へ行ってしまった。

Next: なぜ賃金は上がらない?無力化された日本の労組

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