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トレーダーを惑わせる「2つのランダム」 アルゴ取引は決定論の夢を見るか?=田渕直也

ラプラスの悪魔でも未来は予測できない

人間は、物事を因果関係によって認識するように進化してきました。因果関係を抽出する能力は、人間が人間たる所以ともいえる根本的な能力の一つともいえます。ですが、そのために因果関係によらない現象をうまく理解することができないのです。そして、ランダムは因果関係のない現象です。

そこで人間は、本当にランダムなものなど存在しない、自分は無理でもラプラスの悪魔ならばすべてを見通せるはずだと考えるわけです。

その考えを突き詰めると、すべての現象は因果関係によって決まり、したがって将来のことはすでに決まっていて、すべての因果関係をたどることさえできれば将来を完全に見通せるようになるということになります。これが、いわゆる決定論と言われるものです。

この決定論的感覚はとにもかくにも非常に強力で、すべての人間に本能的に組み込まれています。私などはこれが、予見不可能なことも何とか予測しようともがく人の性につながっていると考えています。

でも、この決定論的感覚は、有益であったとしても、正しいものとは言えません。たとえ、この世界が見せかけのランダムさによって構成されていたとしても、現実の人間には決してすべてを予測することなどできないのです。

「真のランダム」の存在

さらにいうと、世界の根本には、見せかけではなく、本当の意味での真のランダムさが存在すると、最近では考えられるようになってきています。

それが、量子論です。詳しい話は省略しますが、量子論はこの世界のすべての物理現象の根幹を解き明かす理論です。その理論の正しさは数多くの実験によって非常に高い精度で確認されていますが、同時に、人間の直感的な理解を阻むような不可解で神秘的な性質を持っています。

その量子論の中心的な概念として、波動関数の収縮(※1)と呼ばれる決定論では決して記述できないものが登場します。これは、物質が、我々が認識する物質としてふるまううえで欠かせない現象で、それが「真のランダムさ」によるものだと考えなければうまく説明ができないのです。

もっとも、波動関数の収縮が何なのか、どのようなメカニズムで起きるのかは全くわかっていません。つまり、真のランダムさは、本当のところ誰にも理解できない現象といえます。

(※1)量子論では、物質もエネルギーも波動として捉えられます。それがなぜかはともかく、そう考えることで、ほぼすべての物理現象が説明できるのです。ただし、我々がいま目にしているPCやスマホの画面は確固たる物質で、波動なんかではありませんよね。これは本来の波動が収縮した状態であると、量子論では考えるわけです。実は、この波動関数の収縮そのものを見かけ上の現象とする解釈もあります。ただし、現実に我々が認識している世界は波動関数が収縮した状態なので、いずれにしても何らかの非決定論的なメカニズムがないと現実の世界が存在することの説明がつかないことになります。

ちょっと専門的な話を長々としてしまいました。ここで言いたかったことは、「世界の根本には、ラプラスの悪魔でも絶対に予測できない真のランダム性が存在している」ということです。

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