中国経済は土壇場に立たされている。無謀なゼロコロナ対策で経済機能が止まり、米国に対抗する外交政策が敵を作っている。すべては習近平氏の国家主席3期目を巡る野心が元凶である。このままでは日本が経験したバブル崩壊の二の舞となることは確実だろう。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2022年5月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
すべては習近平「国家主席3期目」のために
中国は、習近平氏の国家主席3期目を巡る思惑で混迷している。
習氏が、今秋の共産党大会で思惑通り3選を実現するには、これまで習氏による指導が誤っていなかったことを「証明」しなければならない。
すなわち、次の2点であろう。
1. ゼロコロナ政策は、人命を尊重する共産党の思想に則していること
2. 米国へ対抗する外交政策は、間違いなく共産党の思想に合致する。それゆえ、ロシアと協力していくこと
以上の2点は、単なる政策の域を超えて「イデオロギー」化されている。
「習近平イデオロギー」が元凶
イデオロギーとは、物事に関して歴史的・政治的な自分の立場によって構築された考え方である。
つまり、前記の2点は、結果がどうなれ、習氏の政治的な立場を有利にするべく採用された政策である。
中国の将来に対して、どのような結果をもたらすか。そういう視点よりも、習近平氏の利益になるかどうかが、重大な関係を持っている。
こういう視点に立つと中国の今後は、極めて不安定にならざるを得ない。
(1)のゼロコロナ政策は、2年前の武漢で始まったコロナ感染で、ワクチンもなく治療薬もない状況で、やむなく採用された都市封鎖(ロックダウン)である。習氏は、このロックダウンでコロナを収束させたが、根絶させた意味での終息でなかった。習氏は、内外に向けてあたかも「終息」させたように宣伝し、政治的得点につなげたのである。まさに、イデオロギー化させたのだ。
ゼロコロナ政策が、イデオロギー化された以上、もはや撤回は不可能になった。人口2,500万人の上海市でもこれを行なった。その結果、何が起こっているか。中国GDPの2割を占める「長江経済圏」を麻痺させている。上海市は、この長江経済圏の要である。要が封鎖された以上、縁辺都市の経済機能も半身不随になった。
イデオロギーは、相手に対して無批判に受け入れることを要求する。ゼロコロナ政策が、世界防疫対策において邪道であることを、中国疫学専門家が言い出せない「同調圧力」を生んだ。中国製ワクチンの効果がなくても、米独製の優秀ワクチンの導入を言い出せなかった。
こうして、ゼロコロナ政策を撤廃する機会を失ったのである。