これは「貧困層切り捨て」につながる政策である
すでに日本は一億総中流社会でも何でもない。早稲田大学教授の橋本健二氏は非正規雇用の労働者が低賃金・悪条件の仕事を強いられており、それによって平均年収186万円の貧困層が激増していると指摘している。
コロナ禍の労働環境悪化を経て、この平均年収186万円の貧困層は1,200万人に達しており、上の階層からの転落もあって、もっと増えるのではないかという危惧も発せられている。
この1200万人は生きていくだけで精一杯だ。金融資産を持つどころではないというのが分かるはずだ。岸田首相は「金融所得倍増プラン」を掲げることによって「貧困層切り捨て政策」を進めることを明言したに等しい。
まずは貧困対策を最初に徹底的にやらなければならないのに、どん底に落ちて苦しんでいる人たちを放置するのは許されない。
経済格差はもっと凄まじく広がっていく
「所得倍増プラン」と「金融所得倍増プラン」は何となく似ているので騙されてしまう人もいるのだが言っていることはまったく違う。
まず、「所得倍増プラン」は給料をもらっている人の全員が対象になるのだが、「金融所得倍増プラン」は給料はまったく何の関係もなくて金融資産を保有できている人だけが対象になる。逆の言い方をすると、金融資産を持っていない人は政策の対象外なのだ。
NISAだのiDeCoなど言われても、金融資産がない人たちやそんなものをする生活の余裕がない人たちにとっては蚊帳の外でしかない。
仮に、平均年収186万円の貧困層が激増している中で、この「金融所得倍増プラン」を進めればどうなるのか。当然のことながら、経済格差はもっと凄まじく広がっていくことになる。
弱肉強食の資本主義と化した現在も、すでに経済格差は完全に広がってしまっている。「もはや現状を変えるのは手遅れではないか」と嘆息する国民も多いのだが、岸田首相が「所得倍増プラン」ではなく「金融所得倍増プラン」の方を進めて行ったのであれば、格差問題はもっと悪化していくことになる。
経済格差が広がって底辺から抜け出せないような人たちが広がっていくと、日本社会も荒廃の一途をたどる。
経済評論家の森永康平氏が著書『スタグフレーションの時代』で指摘している通り、荒廃した社会の中で「幸せそうな人を見たら殺してやりたくなった」という動機の犯罪も増えていくだろう。
「金融所得倍増プラン」が幸か不幸か成功すると、経済格差を極度に広げてしまう現実を誰も指摘しないのは奇妙なことだ。そもそも、最初は「所得倍増プラン」と言っていたのだから、平均年収186万円の人たちを貧困から救い上げる所得倍増プランを徹底的にやるのが筋ではないのか。
「所得倍増と言っても言葉通りではない」などと誤魔化すのは言語道断だ。