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日本だけスタグフレーション直撃。先進国で唯一「マイナス金利」継続、しわ寄せで国民の生活水準が落ちていく=斎藤満

政治的な思惑はあるにせよ、インフレ抑制で先頭に立つ米国が、ドル高でインフレを吸収し、世界の資金を流入させて金融の引き締まりも回避、まさに一人勝ちの様相を呈しています。その尻ぬぐいをする日本が国民の生活水準を下げ、外国人観光客や投資家に大安売りをして草刈り場となっています。これで良いのでしょうか。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年10月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

石油ショック以来のスタグフレーション

昨今の世界経済は、約50年前の石油ショック以来のスタグフレーションに苦しんでいます。

つまり、石油やその他資源価格の大幅上昇により、先進国、途上国を問わずにインフレが進行し、同時に所得を資源産出国に奪われ、景気悪化のダブルパンチを受けています。

特にウクライナ戦争の影響でロシアからの天然ガス供給が急減しているドイツではPPI(生産者物価)が30%以上の上昇となり、CPI(消費者物)も10%に迫る上昇となっています。

そしてOECD(経済協力開発機構)の見通しでは、ドイツ経済は23年の成長率がマイナス0.8%に落ち込む予想となっています。エネルギー・コストが2倍以上になり、かつ供給が縮小しているためです。

石油ショック後の昭和49年の日本でも、石油価格の急騰から、卸売物価が年間で31.3%の上昇となり、消費者物価も年間で21.9%も上昇、昭和49年の実質GDPはマイナス成長に落ち込みました。

現在のドイツで起きていることは、石油ショック当時の日本の再現のように見えます。

ロシア産エネルギーの制約を直接受けるドイツやユーロ圏ほどではありませんが、米国もスタグフレーションに陥っています。CPIは年央に前年比9%まで上昇し、今年1-3月、4-6月のGDPは2四半期連続のマイナス成長となりました。

サプライチェーンの停滞により生産が縮小したうえに、輸入資源高で所得が海外に流出し、物価高で消費が大きく減速したことがマイナス成長をもたらしました。

二分したスタグフレーション対応

このスタグフレーション、景気の悪化とインフレ高進が同時に進むために、政策当局は景気悪化に対処するか、インフレ抑制を重視するのか、頭を悩まされます。

石油ショック当時には、まず各国ともにインフレに対応し、金融引き締めに出ますが、景気の悪化を無視できなくなったイギリス、フランス、イタリア、米国はインフレが収まる前に金融緩和に出ました。

一方で日本と西ドイツは景気の悪化にはしばらく目をつぶり、インフレ抑制により重点を置き、金融引き締めを続けました。

日本が公定歩合の引き下げに動いたのは昭和50年4月15日で、CPIの鈍化とともに、春闘ベアが14%台に収まる見通しが立ってのことでした。前年のCPI21.9%上昇に対して、組合は物価後追いで相応の賃上げを求めたのですが、日銀としては「賃金物価の悪循環」を断つ必要がありました。

各国でスタグフレーションへの対応が分かれたのですが、その結果を見ると、早めに緩和転換したイギリス、フランス、イタリア、米国ではインフレの再燃、長期化が見られます。

一方、西ドイツ、日本では景気の負担は大きくなりましたが、それでもインフレは沈静化に向かいました。

日本のGDPは昭和49年の10-12月期と50年1-3月期に2四半期連続でマイナス成長となりましたが、その後はプラス成長に復帰。昭和49年に20%を超えていた日本のCPIは、50年12月には前年比7.7%まで減速しています。インフレ抑制という点では日本と西ドイツがうまくやりました。

これは為替にも反映されました。米ドル、英ポンド、仏フラン、伊リラが下落基調となった一方で、日本の円とドイツマルクは上昇を続けました。ドル円は昭和50年に1ドル300円前後でしたが、その後円高が進み、53年には1ドル200円を割り込む円高となりました。

Next: バイデン政権は「インフレ退治」に専念も、日本だけマイナス金利継続

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