このところ、株式市場は好調です。しかし、ウォーレン・バフェットは実現金残高を過去最高水準に積み上げ、最近では様々な株を売却しています。これは、投資の巨匠であるバフェットが相場の下落を予測しているようにも見えます。果たして、本当に相場は下落するのでしょうか。もし相場が下落する場合、私たちはどのように備えるべきでしょうか。過去のバフェットの行動や発言から学びたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
バフェットが現金を積み上げる意味
これはバフェットが経営するバークシャー・ハサウェイの現金残高の推移です。
直近の現金残高は約1,500億ドルで、およそ22兆円です。
過去の動向を見ると、2000年頃のITバブル崩壊の際には、それまで積み増していた現金を購入資金に充て、現金残高を減らしました。
その後株価が好調な時には現金を積み増し、金融危機などで株価が下落すると再び株を購入して現金を減らすという動きを繰り返してきました。
バフェットのバークシャーは事業会社も持っており、これらの事業から利益が流れ込んでくるため、基本的には現金が積み上がっていくことになります。
積み上げた現金はさらに投資に回されますが、株式の売買による現金の増減もあり、例えば、コロナの後は一時的に多くを買ったりしましたが、最近では売却が続いており、2023年の4月から6月期には1.1兆円の売り越しがありました。
具体的にはアクティビジョンブリザード、シェブロン、GM(45%)などを売っています。
最新のニュースでは、HP(ヒューレット・パッカード)に対する投資も売却の動きに転じているようです。
全体として、バークシャーの資金の流れは現在弱気の兆候が見られ、これは株価が高すぎるか、下落が予想されているか、または投資した先が期待外れだからか、いずれかの要因が考えられますが、いずれにせよどんどん買っている状況ではないことは確かです。
バフェットの投資戦略は、「他人が貪欲な時には慎重に、慎重な時には貪欲に」という動きを貫いてきました。
現金残高の動向からも分かるように、好調な市場では購入せず現金を積み上げておき、市場が下落した時に一気に購入することで資産を増やしてきました。
例えば、1987年のブラックマンデーではコカ・コーラ、2007年のパリバ・ショックではクラフト、そして2008年の金融危機ではゴールドマン・サックスを救済という形で購入し、結果的に大きな利益を得ています。
逆に、ITバブル時には高値で取引されるIT銘柄には投資しなかったため、ITバブル崩壊の影響を受けずに済みました。
バフェットの発言から察すると、彼は相場の動きを予想しているわけではありません。
一方で株価が下がった時には果敢に攻めています。
短期的な予想はしないものの、素晴らしい企業は長期的に上がるという考えのもと、投資を行っているようです。
この考えでは、株価が下落する「恐怖相場」は買いのチャンスということになります。
今、バフェットが現金を積み増しているということは、これから株価が実際に下がるかどうかは分からないものの少なくとも上がっている「他人が貪欲な時」であると判断しているようです。
株価を予想することではなく、現状を読むことが大事ということです。
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