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日銀「マイナス金利解除」で日本は長い苦難の道へ…政府・企業・私たちの生活はどう変わるか=岩崎博充

日本銀行が、これまで堅持してきた「マイナス金利政策」を解除して、17年ぶりに利上げに踏み切った。同時に「イールド・カーブ・コントロール(YCC=長短金利操作)」の撤廃、ETF(上場投資信託)の購入停止といった、これまでの金融緩和政策も修正すると発表した。植田和男日銀総裁が「これでやっと普通の中央銀行に戻る」と語った言葉が象徴するように、異常な異次元の金融緩和政策が、やっと幕を下ろすことになった。

17年間の利下げのなかでも、とりわけ大きな転機となったのは黒田東彦前日銀総裁が安倍政権とともに始めた「アベノミクス」と呼ばれる異次元の金融政策だ。結果的に10年以上にも渡って、歴史的にも極めて稀な異常な金融政策を続けることになった。「異次元緩和の意味は全くなかった」「やる必要はあったのか」と指摘するエコノミストも少なくない。この10年間の異次元緩和の成否はいずれ歴史が判断を下すだろうが、この10年で大きな副作用をもたらし、様々な後遺症を残すことになったことだけは間違いない。

とは言え、日本の将来がこの金融政策転換によって明るい将来が見えてきた。といった楽観的な見方をしている人も多い。果たして、日本経済は本当に大丈夫なのか……。34年ぶりにバブル崩壊前の日経平均株価を更新できたように、前向きに捉えていいのか……。日本銀行の大規模金融緩和の転換がもたらす様々な影響について考えてみたい。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

世界中の投資家が期待する金利上昇の世界?

日銀が金融正常化に向けて政策を修正した影響は、様々な分野に及ぶ。

具体的には、日銀、政府、企業、そして国民全体が少なからず影響を受けると考えるのが自然だ。例えば、日銀そのものも、悪化したバランスシートをどう正常化させるのか、大きな宿題を抱えたままの状態が続いている。

それぞれの影響について、簡単に紹介してみよう。

日銀:574兆円の国債保有、今後も購入継続避けられない?

日銀は、この10年に及ぶ大規模緩和でバランスシートを大きく膨らませてしまった。

YCCを維持していくうえで買い入れた日本国債は、「574兆円」(日銀資金循環統計、2023年9月末現在)、市場全体に占める国債の保有比率も「53.9%」(国庫短期債券を除く時価ベース)に達している。政府が発行している国債の半分以上を、中央銀行が保有している状態だ。

言うまでもないが、日本銀行は日本政府の子会社でもなければ、一蓮托生でもない。独立した機関だ。政府が日銀依存から脱却できない限りは、この構図は解消できない。

実際に、日銀は現在でも「月額6兆円」もの国債を購入し続けており、この国債買い入れは今後も継続する方針を打ち出している。金利上昇の際には購入金額を増額して、金利の高騰を防ぐ意味でも、今後も日銀は日本国債を購入し続けていくとしている。植田総裁は、いずれは国債買入れの量を減額していく、と述べているが、政府の国債発行の量が変わらない以上、難しいかもしれない。

問題はいつまで購入し続けることができるかだが、それも限界が見えてきている。いずれ金利上昇によって保有国債の利息収入を上回る利払いが発生して「逆ザヤ」に陥る可能性が高い。政策金利が0.28%で逆ザヤ、同2.75%で債務超過になるという野村総合研究所のシミュレーションもある。

<70兆円のETFは売却できない?>

国債以外にも、ETFの問題がある。日銀はアベノミクス以前からETFを購入し続けているが、今回の金融財政決定会合では新規の買い入れを終了すると宣言している。

とは言え、日銀は現在時価にしてざっと「70兆円」、日本政府の年間の税収に匹敵するETFを保有しており、しかもその含み益は「32兆円」(簿価37.2兆円)に達している(ブルームバーグ「日本株好調で膨らむ日銀のETF保有総額、年間の税収に匹敵する規模」2024年2月16日配信)。

規模が大きすぎてとても、日銀が単独では売れない規模になっており、今後はこの処理の問題が出てくる。言い換えれば、34年ぶりの日経平均株価の史上最高値更新も、日銀の緩和政策とETF購入がなければ実現しなかったと言える。

Next: 「ゾンビ企業」たちの大清算が始まる?日本政府も大変なことに…

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