西側福祉主義を忌避
以上の記述によって、中国経済が不動産バブル崩壊によって最大の危機にあることが、実証されよう。習近平氏は、これにもかかわらず「イデオロギー」遵守に徹している。「中国式現代化」とは、中国が中国式社会主義によって「中華民族の復興」を目指すものである。習氏は、これから経済的な苦難が起ころうとお構いなく、共産主義路線を貫徹する姿勢を取っている。極めて危険な賭である。
中国のエコノミストや投資家らは、GDPを押し上げるべくもっと大胆な取り組みを中国政府に求めている。特に個人消費の喚起策として、必要なら新型コロナウイルス下で米国が導入した現金給付を実施すべきとしている。中国が、米国に近い消費者主導型の経済へ移行を加速させれば、成長が長期的に持続可能となる、とエコノミストらは指摘するのだ。
だが、習氏は先述の通り消費刺激策を「国家福祉主義」として否定する。一方で、習氏の唱える「共同富裕論」は、まさに福祉主義であろう。西側の「国家福祉主義」と、習氏の「共同富裕論」はどこが違うのか。
習氏の視点によれば違うようだ。欧米流の消費主導による経済成長に対し、習氏は根深い反対論を抱いている。中国政府の意思決定をよく知る複数の関係者は、そう指摘するという。習氏は、欧米流成長に浪費が多く、中国を世界有数の産業・技術大国に育てる自身の目標とは相いれないと考えているというのだ。
習氏はまた、中国が財政規律を守るべきだとの信念を持っている。中国が抱える債務総額が、対GDP比で300%を超えている現状では、習氏の指摘にも一理がある。この結果、米国や欧州のような景気刺激策や福祉政策を導入することは考えにくい、と中国政府関係者は指摘する。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(23年8月31日付)が報じた。
習氏は、計画経済である社会主義が、合理的な政策決定を行うのに対して、市場経済である資本主義経済は無駄な支出を行っていると規定している。これは、習氏が共産主義というドグマに支配されていることを如実に表している。旧ソ連が崩壊した事実こそ、計画経済の非現実性を示している。この歴史的事実を、棚に上げているのだ。
高速鉄道が無用の長物
その無駄な一例として、高速鉄道建設を挙げれば十分であろう。
中国は、インフラ投資による経済成長の一環として高速鉄道建設に邁進している。国家鉄路局によると、中国国内で営業する鉄道路線は23年に15.9万キロと、過去5年で2割も増えている。このうち高速鉄道は同4.5万キロで、18年より1.6万キロも延びた。毎年のように、日本の新幹線の総営業距離に相当する路線を新規開設してきた計算だ。
これだけ急ピッチな建設であるから、最初から採算は度外視である。23年12月期業績は、営業総収入が1兆2000億元に対し純利益は33億元。純利益率は0.28%に過ぎない。負債総額は、6兆1282億元(約125兆円)もある。年間純利益で返済すると1857年もかかる計算である。事実上、利益での返済は不可能だ。
日本の旧国鉄の累積赤字は、民営化直前の1987年に31兆2000億円であった。中国高速鉄道の累積赤字は、2022年末で122兆円である。旧国鉄赤字の3.9倍にも達している。今後の路線延長と人口減でさらに赤字は膨らみ続ける。その対策はゼロだ。日本は、赤字脱却策として国鉄民営化(JR)へ踏みきった。市場原理の導入である。現在のJRは、健全経営に向っている。
中国が、高速鉄道経営で失敗した例をもう1つ挙げておこう。
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