「自己破産」の困窮度
中国では現在、所得の伸びが鈍化し、失業が広がっている。こういう状況下で、持ち家の評価額が下がることで、「ネガティブ・エクイティー」といわれ状態が発生している。これは、ローンで購入した物件価格が急落して、ローン残高を下回るケースを指している。
この状態になると、無理して住宅ローンを返済することに疑問の念を抱かせるようになる。延滞することで、事実上の「自己破産」するのだ。中国にはまだ、自己破産の法律がなくローン延滞者には手厳しい経済的制裁が科されている。高速鉄道に乗車できないとか、人権無視の制裁である。それでも、経済的な困窮から脱したいという人々が存在する。
ネガティブ・エクイティーの恐怖は、銀行にも及んでいる。自己破産した物件は、競売に付せられる。その数は23年に過去最多を更新した。ブルームバーグがまとめたデータによれば、銀行は23年に247億元相当(約5,400億円)の住宅ローン不良債権を担保とする金融商品を発行した。これは、過去最高額とされる。
ローンの返済を怠った住宅所有者は、銀行が起こした訴訟に引きずり込まれ、自宅差し押さえの憂き目に遭う。持ち家は、最終的に20~30%程度の値引きで売却される。自己破産者は、前述のように非人間的な制裁を受けている。それだけに、なんとか自己破産しないように歯を食いしばって返済している状況だ。こうなると、稼得所得はまず住宅ローン返済に向けられ、余った金で生活する事態へ追い込まれる。生活を切り詰めるほかないのだ。
ブルームバーグのデータによると、中国の家計負債は2023年末時点で、1人当たり可処分所得の145%にも達している。過去最高水準を記録した。英国は126%で、米国が97%である。この状態で、中国の消費回復など期待する方が無理である。
さらに問題は、短期的に住宅相場の底入れが望めない点だ。習近平氏は、住宅問題に対する関心が薄く、政府補助金はひたすら製造業振興へ向けている。こうした状況では、今後も住宅価格の値下がりが続くであろう。
中国の家計は、すでに崩壊状況にある。中国社会は、家計資産の7割が不動産である。住宅価格が5%下落するごとに、19兆元(約380兆円)の住宅資産価値の消失になるとブルームバーグが試算している。これからもなお、30%の下落が予想されている。約2,300兆円が消える計算である。この状況で、中国の家計が保つだろうか。冷静に判断すれば、「不可能」という3文字が浮かぶはずだ。
ブルームバーグ・エコノミクスによれば、住宅セクターの経済におけるウエートは、26年までに中国GDPの約16%にまで縮小する可能性がある。それにより、アイルランドの人口に匹敵する約500万人が失業や収入減のリスクにさらされる恐れがあるとしている。『ブルームバーグ』(5月20日付)が報じた。