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底値から7倍!なぜ「無印良品」株を持ち続けられた?企業価値を見抜いて耐える、長期投資の真髄とは=栫井駿介

<隠された問題点:深刻な「在庫問題」>

株価下落の裏には、実は深刻な「在庫問題」が潜んでいました。小売業、特にアパレルでは、仕入れた商品が売れるまで損益計算書に計上されません。そのため、大量の在庫を抱え、お金が流出していたにもかかわらず、PL上は業績悪化として表面化しなかったのです。

無印良品側も、「ベーシックな商品だからいつか売れる」という安易な考えで、在庫問題に真剣に向き合っていなかったのかもしれません。決算説明会でも、この問題に対する言及はあまりありませんでした。

<事業戦略の歪みと競争の激化>

在庫問題に加え、戦略的な問題も浮上しました。

【得意ではない分野への進出】
アパレルは売上を伸ばしたものの、ユニクロのような品質への徹底したこだわりがなく、「得意じゃない分野」で強い競合とぶつかっていたのです。

【不人気商品の開発】
男女兼用を謳う「ユニセックス」服など、売れない商品が開発され、これも在庫として積み上がりました。

【全方位での競合】

  • ユニクロ:本格的なアパレル競合。
  • ニトリ:家具だけでなく、無印良品が得意とする小物でも競合。
  • 3COINS:300円均一でかわいらしいおしゃれな商品を展開し、無印良品が得意としていた文房具や小物で、特に若年層の顧客とバッティング。ブランド化により高値をつけていた無印良品は、価格競争で不利に立たされました。

【出店戦略の失敗】
コストの高い都心部に積極的に出店していましたが、これが「カニバリゼーション」(共食い)を引き起こしていました。同じ駅の南口と北口に店があるような状況で、顧客が分散し、店舗あたりの売上が低下したのです。

 

これらの要因が重なり、良品計画の業績は2020年から2022年にかけてずるずると下降していきました。株価も再び1,000円近くまで逆戻りし、投資家にとってはまさに苦しい「どん底」の時期でした。

救世主、堂前社長の登場と「第二創業」への挑戦

そんな苦境の中、2021年に大きな転換点が訪れます。長年、良品計画を支え、特に中国事業の拡大を主導してきた松崎社長が交代し、堂前社長が就任したのです。

堂前社長は、元々はコンサルティングファームのマッキンゼー出身で、その後ユニクロの柳井氏に請われてファーストリテイリングに入社。ユニクロでも頭角を現し、一時は柳井氏の後継者とまで噂された人物です。その敏腕コンサルタントが良品計画の社長に就任したことで、大きな期待が寄せられました。

しかし、彼が打ち出した新中期経営計画「第二創業」(2022年8月期〜2024年8月期)は、正直なところ、投資家を困惑させる内容でした。資料は写真が多く、企業理念の再定義に多くのページを割き、「誠実な品質」「適正価格での提供」といった当たり前のことや、「地域コミュニティセンターとしての役割」といった利益よりも社会貢献を重視するような記述が目立ちました。

「人や社会の役に立つ」「公本主義経営」「社会への良いインパクトの競争」といった言葉が並び、具体的な数値目標や戦略は乏しく、非常に漠然とした印象を与えました。株価もこれを受けてまったく上がらず、むしろ下がったほどです。

私自身も困惑したものの、一方で「マッキンゼーやユニクロで辣腕を振るった人物が、こんな手抜きのような計画を出すはずがない」という希望的な見方をしていました。これはきっと、数字だけではない、無印良品の本質に立ち返ろうとしているのではないか、と感じたのです。

Next: 堂前社長の再生戦略とは?無印良品が復活できた理由

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