<株主総会で垣間見た「真の戦略」地方ドミナント戦略>
私はこの疑問を確かめるべく、株主総会に出向きました。そこで堂前社長のプレゼンテーションと質疑応答を聞き、ある確信を得ます。
堂前社長はとにかく“キレっキレ”で、自ら淀みなく説明し、質問にもズバズバと答える姿を見て、「この人はちゃんと見えている」と感じました。
そこで語られた具体的な戦略こそが、「全国津々浦々」地方への積極的な出店戦略でした。これは、都心でのカニバリゼーションを避け、地方のスーパーに隣接する形で店舗を増やしていくというものです。地方にはおしゃれな店や良いものが少ないという実情があり、そこに「そこそこ良いものが手軽に買える」無印良品が出店することは、地方住民にとって非常に魅力的なことだと、田舎出身である私は直感的に感じました。
この戦略は口だけではなく、実際に行動に移されました。業績が悪いと言われる中でも、良品計画は店舗数を年間50~100店舗というペースで増やし、アクセルを踏み続けたのです。これは相当難しい舵取りだったはずです。
利益体質への変革と「無印らしい」商品戦略の成功
新たな社長体制の下、良品計画は多岐にわたる改革に着手します。
<コスト構造と人材の改革>
まず、低迷していた利益率を改善するため、非効率性の排除を進めました。
- 高家賃店舗からのシフト
- 在庫問題の解決
- サプライチェーンの効率化
- 人事制度の刷新
都心から地方への出店戦略により、賃料コストを抑制。
大量に滞留していた在庫を処分し、在庫管理を徹底。
これまでブランド力に頼り、サプライチェーン管理が十分でなかった点を改善。商社任せだった仕入れを見直し、自社で良い原材料を世界中から探し、効率的に製造してくれる海外の委託先を探すなど、原価低減と品質向上を両立させようとしました。
堂前社長は、外部の専門家を招き入れる一方で、社内の改革も断行しました。「やる気のない者は去れ、やる気のある者は手を挙げろ」という実力主義を掲げ、20代の若手社員を2年で店長に昇格させるなど、積極的な登用を進めました。その一方で、キャリアのある中堅社員には、希望しない部署への異動を命じるなど、厳しい人事も行われ、一部の退職者も出たほどです。しかし、この大胆な人事改革が、企業の体質を大きく変える原動力となったのです。
<商品力の強化と既存店売上の回復>
いくら店舗を増やしても、商品が売れなければ意味がありません。良品計画は商品改革にも力を入れます。
3COINSのような安価な商品と価格で競うのではなく、「環境に優しい」「人に優しい」といった「無印らしい」漠然としたイメージを強みに変える商品開発に進んでいきます。
その中で大ヒット商品となったのが、「発酵導入美容液」です。前年割れが続いていた既存店売上が、ついに前年を上回るようになり、その後も継続的に好調を維持するようになりました。
株価大躍進の理由と長期投資家への教訓
これらの企業努力が実を結び、良品計画は業績が回復し、それに伴い株価も大きく上昇していきました。
足元の株価急騰には、外部環境も影響している可能性があります。当時、トランプ関税などの影響で輸出企業への投資がしづらい状況があった中で、国内需要が中心である良品計画は、業績回復と相まって資金が流れ込みやすかった側面もあります。
しかし、企業の努力による改善がなければ、この資金流入もなかったでしょう。