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中国経済「沈没」を示す悲惨なデータ。2つの構造的危機とトランプ高関税が致命傷に=勝又壽良

中国経済は悪化の一途

その実態は『ロイター』(8月15日付)が次のように報じた。

米国市場を失った中国企業は、手近な豪州へ殺到している。これによって中国企業は互いに値引き競争を繰り広げている結果、輸出価格が引き下げられている。コスト切り下げの手段は、賃金の引き下げである。最近の中国では、「無給休暇」が広がっている。仕事が減ったので労働者に休暇を取らせるが無給としている。また、残業代の切り下げも行なっている。日給の相場が、24年の16元(約3,200円)から、今年は14元(約2,800円)に下がっている。連日のように、多くの面接希望者が工場前で列をなしているという。

こうした賃金引き下げは、小売売上高の停滞となって現れている。
中国の小売売上高(前年同月比)は、次のようになっている。

4月 5.1%増
5月 6.4%増
6月 4.8%増
7月 3.7%増
出所:中国国家統計局

6~7月の2カ月連続の減少は、2022年10~12月以来となる。当時は、新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙うゼロコロナ政策が経済活動を大きく阻害していた時期である。現在、それと同様の現象が起きていることは、コロナ並みの経済環境に追い込まれている証拠である。コロナ以前の小売売上高は、コンスタントに8%台の増加率を維持していた。7月は、当時からみて半減状態である。国民生活がどれだけ圧迫されているかを窺わせている。

中国経済「沈没」データ

中国経済を1つのデータで読み込むには、金融データが最適である。日々の経済取引が通貨を介して行なわれている以上、当然のことである。ただ、金融というと毛嫌いされる恐れもあるが、しばらく辛抱をお願いしたい。このデータが、中国経済の「沈没」を雄弁に物語っているからだ。

中国人民銀行(中央銀行)によると7月は、銀行の新規融資額が借り手からの返済額を下回ったのだ。これは、重大な中国経済悪化のシグナルである。成長する経済では、常に新規融資が返済を上回って、融資残高が増え続けるはずである。それが、逆転して新規融資額が減ったのだ。05年7月以来、20年ぶりに逆転現象が起きたのだ。なかでも、消費者ローンや住宅ローンなど家計向け融資の落ち込みが目立っている。

金利が下がっても融資が増えない現象は、「流動性の罠」と呼ばれている。新規に借入れても金利以上の利益が見込めない時に起こる問題だ。こういう事態は、今後の経済成長率(名目)が金利を支払って余りあるものになる見込みが持てない結果だ。GDP成長率では、一般に実質値が尺度である。だが、日々の生活は名目値である。金利も名目値だ。よって、名目値で中国経済をみると、すでに「名実逆転」である。名目成長率が実質成長率を下回っているのだ。もう、7四半期連続でこの逆転現象に陥っている。

これは、デフレ現象である。習近平氏にはこの「デフレ」という言葉がタブーである。「長引く物価下落」と呼び変えさせているが、無意味な言葉遊びである。問題は、名実逆転という「底冷え経済」に陥った現在、上述の消費者ローンや住宅ローンなど家計向け融資は、賃金上昇が見込めない以上、新規に借入れる人が減るのは「正常感覚」である。利に賢い中国社会が、こういう選択をすることは目に見えているのだ。

中国政府は8月12日、家計の借り入れ需要を刺激して消費を促す対策を打ち出した。人民銀行や中国財政省は、9月から消費者が5万元(約100万円)未満の商品や、車など一部の高額商品の購入時に組むローンの利子を補助すると発表した。期間は1年間で、銀行融資の利子の1%分を中央政府と地方政府が財政負担するという破格の待遇だ。政府の方針を受け、国有四大銀行の中国銀行や中国工商銀行は、政策を推進するとの声明を相次ぎ出している。

この、消費支援策は成功するか。結論を言えば、成功しないだろう。所得上昇という先行きの見通しが立たなければ、約100万円未満の商品を購入しローン金利のうち1%分を補助して貰えるメリットがないからだ。まず、所得環境の整備が不可欠である。

「恒常所得仮説」という見方がある。消費は、所得が恒常的に増える見通しが立たない限り増えないとする実証的研究である。自分の生活を振り返ってみれば分ることだ。収入増加の当てもなく、大型商品をローンで購入する家庭は確実に破綻する。

中国は、金融データの中に現れているように危機的状態に陥っている。先に挙げた「流動性の罠」や「恒常所得仮説」といった尺度は、現在の中国経済を解剖する上で不可欠の「メス」である。これによると、中国経済はどうにもならない道へ嵌まり込んでいることが分かるのだ。

Next: 中国に復活の道はあるか?経済「沈没」には2つの根深い問題がある…

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