引退間近のバフェット:負の遺産を残さない戦略?
バフェット氏は2025年末でCEOを退任することを表明しており、後継者にはアベル氏が指名されています。バフェット氏は現在90代半ばであり、引退に向けて準備を進めていると考えられます。
上場株ではありませんが、かつて買収したクラフト・ハインツの保有分を減損処理するなど、「負の遺産」を次の世代に残さないという意図も見受けられます。このような彼の個人的な状況も、現金を積み増し、保守的な姿勢を取る一因となっているかもしれません。
しかし、個人的な理由だけでなく、「今、魅力的な投資案件がなかなか見当たらない」という市場全体の状況も、現金を積み増している大きな理由であると考えられます。
もう一人の賢人、ハワード・マークスの警鐘:S&P500は「高すぎる」!
ウォーレン・バフェット氏と同じく、市場の動向を深く観察し続けている著名な投資家に、ハワード・マークス氏がいます。彼は『投資で一番大切な20の教え』や『市場サイクルを極める』といった著書で知られ、彼が顧客向けに公開しているレポート「Oaktree Howard Marks’s Memo」は、金融市場のメカニズムを理解する上で非常に有用なものとなっています。
マークス氏は、最近のメモ「価値の計算」(8月14日付)の中で、企業価値は比較的安定しているにもかかわらず、株価が大きく変動する株式市場の特性について語っています。そして、現在の市場状況について、非常に強い警鐘を鳴らしています。
<S&P500のPERが示す「低リターン」の未来>
マークス氏が特に懸念しているのは、S&P500株価指数の評価の高さです。
- 昨年末のS&P500の将来予想PERは23倍で、過去平均を大幅に上回っていました。
- JPモルガンが公開したグラフによると、1987年から2014年の間にS&P500をPER23倍で購入した場合、その後の10年間の平均年間リターンは常にプラス2%からマイナス2%の間であった、つまり限りなくゼロに近いリターンだったことを示しています。
- そして、現在のS&P500のPERは昨年末よりもさらに高く、約28倍に達しています。マークス氏は、このような高PERの時に投資すると、その後の利益はおよそ期待できないと指摘しています。これは、ITバブル期にPERが33倍に達した時と同様の状況であると述べています。
<「マグニフィセント・セブン」だけじゃない!懸念すべき全体の割高感>
現在の米国株市場の高騰は、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるGAFAMなどの巨大テクノロジー企業が牽引しているという見方があります。彼らは独占に近いビジネスモデルで高い利益を上げており、AIやIT化の進展でさらに稼ぐと期待されているため、PERが高くても当然だという反論です。
しかし、マークス氏はこの見方を一部否定しています。彼は、マグニフィセント・セブン以外のS&P500構成銘柄493社の平均PERが22倍であることに着目しています。これらの企業は、特に成長性が高いわけではなく、従来のビジネスを展開しているにもかかわらず、歴史的な平均PERである10倍台半ばを大きく上回っているのです。
つまり、マグニフィセント・セブンだけでなく、市場全体が過大評価されており、これは懸念すべき状況であるとマークス氏は考えています。
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