楽観主義に染まる市場参加者の心理
マークス氏は、現在の市場の心理状態についても深く言及しています。
- 投資家は楽観的な気分にいる時、曖昧な材料を肯定的に解釈し、否定的な材料を無視する傾向がある。例えば、「AIの進化で経済は大きく変わる」といったポジティブなストーリーに目を向けがちです。
- 特に35歳前後の投資家について、マークス氏は懸念を表明しています。彼らは、2009年初頭のリーマンショック以降の「長期にわたる夜明け相場(強気相場)」しか経験しておらず、「リスク許容度が著しく低下し、押し目買いが報われなくなった状況」を経験したことがない。このため、「下がったら買えばすぐに上がる」「ずっと買い続ければ良い」といった考えに陥りがちです。
- 年配の投資家も、長い年月が経過したことで過去の教訓を忘れ、「誤った安心感」に陥っている可能性があると指摘しています。
- このような楽観的な市場参加者の割合が増えることで、市場はさらに押し上げられることになります。
さらに、マークス氏は現在の投資家が「FOMO(Fear Of Missing Out)」、つまり「取り残されてしまうかもしれない不安」によって動機付けられていると分析しています。損失を出すことよりも、市場の上げに乗り遅れて機会損失をしてしまうことへの恐怖心が強いため、株価が上がると焦って買いに走る傾向があるのです。
<ファンダメンタルズの悪化と高騰する資産価格>
マークス氏は、現在の経済状況についても「良くない」と評価し、インフレ懸念や米国の財政状況の厳しさ、そして今後のインフレリスクなどを指摘しています。
7ヶ月前と比較して、ファンダメンタルズは全体的に悪化しているように見えるにもかかわらず、資産価格は収益と比較して高く、歴史的に見ても高水準にあると述べています。これは、投資家のポジティブな心理が相場を牽引している結果だと考えられます。
<賢明な投資家はどう動くべきか?ハワード・マークスの「インベスコン」>
ハワード・マークス氏は、自身の見解が絶対であるとか、これからすぐに暴落が起きるとは断言していません。株価が高いままで推移することも十分にあり得る、と冷静な見方を示しています。
しかし、「慎重な投資家であるならば、冷静に市場を見守る必要がある」と強調しています。その上で、彼独自の投資行動の警戒レベル「インベスコン(InvestCon)」を提示しています。これは、米国国防総省の防衛準備態勢「DEFCON」になぞらえ、デフコン5(通常)からデフコン1(核攻撃が差し迫っている)までエスカレートするのと同様に、市場のバリュエーションが高まり、投資家行動が楽観的になるにつれて警戒度を高めていくべきだという考え方です。
インベスコンの段階は以下の通りです。
- インベスコン6:買いをやめる
- インベスコン5:積極的な保有を減らし、守備的な保有を増やす
- インベスコン4:残りの積極的な保有を売却する
- インベスコン3:守備的な保有も減らす
- インベスコン2:保有全てをなくす
- インベスコン1:空売りをする
マークス氏は、インベスコン3、2、1のような極端な行動は実質的に不可能であり、賢明ではないと考えています。彼自身も、株をすべて売却するような行動は取ったことがないと言います。
しかし、「インベスコン5を実行する時期が来たと考えることに何の問題もありません。」と彼は明確に述べています。
つまり、歴史的に見て割高に見えるものへの投資を減らし、より安全と思われるものに切り替える時期が来ているということです。そうすることで、もし市場がしばらく上昇を続けたとしても損失は比較的小さく抑えられ、少なくとも夜も眠れないほどの損失にはならないだろうと述べています。
このマークス氏の「警戒レベルを一段階引き上げる」という姿勢は、前述したウォーレン・バフェット氏の「守備的なポジション」とも完全に一致しています。彼らはすぐに大きな調整が来ると断言しているわけではありませんが、大きな損失を避けるためには、このような警戒が必要であると考えているのです。
Next: 米国と日本の市場…チャンスはどこにある?