セブン&アイ・ホールディングス<3382>は、祖業であるイトーヨーカ堂を含むスーパーストア事業やその他事業を米ベインキャピタルに売却し、コンビニ事業への特化を明確に打ち出した。利益率の低い事業を手放し、国内外のコンビニ事業に集中する同社の戦略は妥当といえるが、果たしてこの「祖業切り捨て」による事業特化は成功するのか。売却価格の妥当性と今後の成長戦略を分析する。(『 元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」 元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」 』澤田聖陽)
※本記事は有料メルマガ『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』2025年9月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:澤田聖陽(さわだ きよはる)
政治経済アナリスト。国際証券(現:三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、松井証券を経て、ジャフコ、極東証券にて投資業務、投資銀行業務に従事。2013年にSAMURAI証券(旧AIP証券)の代表に就任。投資型クラウドファンディング事業を立ち上げ拡大させる。現在は、澤田コンサルティング事務所の代表として、コンサルティング事業を展開中。YouTubeチャンネルにて時事ニュース解説と株価見通しを発信している。
祖業「イトーヨーカ堂」を売却、コンビニ事業に注力へ
9月1日、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイHD)は、祖業であるイトーヨーカ堂(ヨーカ堂)を含む約30社を米投資ファンドのベインキャピタル(ベイン)に売却したと発表した。
売却するのはスーパー事業のヨーカ堂、東北地方に強いスーパーであるヨークベニマル、ベビー用品の赤ちゃん本舗、雑貨店のロフト、ファミレスのデニーズなどが含まれる「ヨーク・ホールディングス(ヨークHD)」となる。
ベインは買収のための特別目的会社(SPC)を通じてヨークHDを買収したのだが、SPCにはベインが60%、セブン&アイHDが35.07%、ヨーカ堂の創業家が4.93%出資している。
譲渡対価については、金銭により8,147億円を支払うと開示されている。
譲渡の完了により、セブン&アイHDはコンビニ事業に経営資源を特化することとなる。
譲渡対価の適正か?
まず売却金額の適正性について検証してみたい。
譲渡対価は8,147億円とされており、これは債務も含めた企業価値(EV:エンタープライズ・バリュー)であろうと考える。
セブン&アイHDはセグメント別の売上、営業利益、EBITDA(営業利益に減価償却費等の費用を戻したもの。簡易的なキャッシュフローを表す)を開示しているが、2025年2月期のスーパーストア事業及びその他事業の数値は以下のとおりとなっている。
・スーパーストア事業
売上:14,321億円
営業利益:104億円
EBITDA:520億円
・その他事業
売上:3,209億円
営業利益:57億円
EBITDA:126億円
両事業の合計EBITDAは、約650億円となる。
EVをEBITDAで割った「EV/EBITDA倍率」は12.5倍であり、業種にもよるがこの倍率の目安は8倍程度と言われていることから鑑みると、セブン&アイHDとしてはそれなりに高いバリューで売却できたのではないかと考える(筆者注:明確に開示されていない部分が多いので、推定が含まれる概算であることを留意いただきたい)。
「コンビニ事業」特化戦略の成否は?
セブン&アイHDが祖業であるヨーカ堂を含むスーパーストア事業等の売却を決めた背景には、アクティビストからの圧力や、その後のアリマンタシォン・クシュタール社による買収意向(すでに撤回している)などの影響があるのは言うまでもない。
なぜスーパーストア事業等の売却をしなければならなくなったのかだが、同事業の利益率が低いことと、今後の成長性が見込めないということが要因である。
2025年2月期のセブン&アイHDの国内コンビニ事業、海外コンビニ事業、スーパーストア事業の売上、営業利益、EBITDA、売上に対する営業利益率、売上に対するEBITDA率は、以下のとおりとなっている。
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