オムロンの構造改革と長期的な課題
<短期的な改革:固定費削減と脱チャイナ>
オムロンは、外部環境に振らされやすい現状、特に中国市場の悪化を受け、中期計画の途上にもかかわらず構造改革案を発表しました。
改革の主な内容は、固定費構造の適正化、過剰在庫の解消、事業のスリム化による外部環境に耐えうる体制の構築、そして成長性の向上です。また、中国に依存する体制を是正するための「脱チャイナ」も進めていくとしています。
<構造改革の難しさとジレンマ>
しかし、この構造改革には大きな難しさがあります。
- コア技術との関連性
- 中国依存度の高さ
- 人員削減の影響
制御機器と電子部品(センサー)は、ヘルスケアや社会システムなど、オムロンの全事業の根幹をなすコア技術です。このコア部分を大胆にスリム化することは、他の事業にも影響を及ぼすため、なかなか難しい局面だと言えます。
オムロンの製造拠点は日本と中国にあり、中国への依存度が高い構造を一気に削る(大鉈を振る)ことは、中国の市況が回復すれば再び受注が戻る可能性もあるため、現実的に困難です。
構造改革の一環として、制御機器事業で約1.5割、電子デバイス事業で1割弱、合計約2,000人の人員削減を実施しています。現場の士気を維持しながらソリューションビジネスへと転換できるのかという疑問が残ります。
<中長期戦略:物売りからサービスへの転換>
オムロンは、中長期的目標として、単なる「物売り」から「モノ+サービス」への転換を掲げています。具体的には、データプラットフォームを構築し、オムロンの機器だけでなく他社ソリューションからもデータを吸い上げて利活用することで、サービスを展開したい考えです。製造現場の効率改善ソリューションとして「i-BELT」というブランド名で、センサーなどから情報を集め、現場の効率改善を見える化・支援するサービスを展開しています。
しかし、このソリューションビジネスの領域は、競合他社もプラットフォームビジネスのプレイヤーとして狙っています。例えば、三菱電機は「e-F@ctory」、ファナックは「FIELD system」を展開しており、この中でオムロンがどれだけ覇権を握れるか、不確実性が高い状況です。
<日立の事例から見る大胆な改革の必要性>
かつての日立製作所も、リーマンショック時に大赤字となり、15年間かけて血を流すような構造改革を実施しました。日立は、不採算事業の売却や撤退、売上規模の縮小を経て、収益化が可能な事業に選択と集中を図りました。さらに、サービスへの転換を図るため、自社の力だけでなく、海外M&A(例:グローバルロジックの買収、ABBの電力関係事業の買収など)を通じて、外部の設計力やデザイン思考を取り入れました。
オムロンがサービスへの転換を成功させるには、日立が実行したような外部の力も取り入れつつ、コア事業に大胆に大鉈を振る局面が必要になるかもしれません。オムロンはJMDC社を買収しましたが、その活用はヘルスケア事業寄りであり、コア事業である制御機器や電子部品事業にどれだけ効果が及ぶかはまだ見えない状況です。
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