■富士紡ホールディングス<3104>の中期経営計画
1. 中期経営計画「増強21-25」の全体像
2021年4月にスタートして4年目を迎えた中期経営計画「増強21-25」の前半(2021~2023年)は、高収益体質への転換と種まき時期と位置付けた。また、2024年からの後半(2024~2025年)は2025年のあるべき姿の実現に向け、“非連続的成長”を達成すべく、盤石な準備を進めている。最大のキーポイントは研磨材や化学工業品を扱う事業のさらなる拡大のための「設備投資や研究開発投資」の適時適正な実行だ。大型設備投資の場合、発注してから稼働まで2年のタイムラグがあり、早期の意思決定が重要となるので今後も注視したい。半導体業界の足元はシリコンサイクルによる需給変動はあるものの、これは循環的要素であり構造的には高成長を持続するので、富士紡ホールディングス<3104>も先行的に設備投資を進めている。事業を拡大するためには、設備投資やM&A、アライアンスといったハード面の増強が不可欠であるが、ソフト面とのバランスも重要であり、優秀な人材(特に研究開発に携わる人材)を確保し、その能力を存分に発揮できる環境をいかに整えるかが喫緊の課題である。
2. 経営目標と計画数値
同社は、中期経営計画「増強21-25」において、稼ぐ力の増強を図り、収益性を向上させる(“利益あっての社会貢献”)ことを全体方針としており、経営目標は2026年3月期の営業利益100億円(営業利益率16.7%)の実現を目指している。これは、2021年3月期の営業利益52億円の約2倍とチャレンジングな目標であり、同計画期間内の“非連続の事業拡大”が求められる数値である。この目標実現のために、2026年3月期の売上高目標は、2021年3月期比1.6倍の600億円を掲げている。
(1) 業績目標の達成状況
中期経営計画「増強21-25」は順調なスタートを切ったものの、2023年3月期下期から2024年3月期上期にかけて直撃した半導体不況により、研磨材事業が大幅に落ち込み、同社の成長力にブレーキがかかった。2025年3月期は業績が回復傾向にあるものの、中期経営計画の最終年度である2026年3月期の目標達成は厳しい状況となっている。一方、営業利益ベースでは、過去5フェーズの中期経営計画期間(2006年~2015年)における最高値となる営業利益75億円(営業利益率16.5%)を達成できる見通しである。
(2) 成長投資の実施状況
オーガニックグロース(自律的成長)を前提に、中期経営計画「増強21-25」の成長投資枠(250〜300億円)の範囲内で能力増強・研究開発強化のための投資を進めている。特に、研磨材事業には、最先端領域強化のための研究開発投資を最重要視し、台湾研究開発センターの建設、技術開発棟の建設、設備導入や分析設備の増強などに、成長投資全体の約5割を投入している。また、化学工業品事業では機能性材料が中長期的に受注拡大が見込まれるため、2026年4月稼働に向けて柳井本社工場に新プラントを建設中である。なお、M&Aについては適切な案件がないため、成長投資250億円〜300億円は研磨材や化学工業品領域で成長が見込めるオーガニックグロース領域に振り向けている。
3. 次期中期経営計画に向けて
2027年3月期から始まる次期中期経営計画のテーマは「進化」である。生成AIを主導役とする半導体・エレクトロニクス市場は、今後10年で大きく拡大すると予想されており、同社はこれを見据えて、次期計画で一段上の飛躍的成長を目指している。現行計画の目標(売上高600億円、営業利益100億円)についても、“できるだけ早いタイミング”での達成を目指す。そのけん引役となるのは研磨材事業であり、化学工業品事業も新プラント稼働により“ワンステージ上がる”ことで、成長への貢献が期待される。また、第4の柱として位置付ける化成品事業については、現実的な目標として早期に売上高50億円(現状:化成品・金型事業合計約30億円)の達成を掲げ、将来的には100億円規模の事業への成長にチャレンジしたいと同社の経営幹部は語っている。現在、次期中期経営計画「進化26-30」の策定は大詰めを迎えており、2026年2月に説明会を予定している。
「資本コスト株価を意識した経営」の実現に向けた取り組みを推進
4. 資本効率の目標と実績
中期経営計画「増強21-25」では、「資本効率重視」経営を掲げ、資本コスト(日本企業はおおむね8%)を意識し最終年度目標として、営業利益率16.7%、ROE・ROIC10%以上を設定した。しかし、中期経営計画の2年目と3年目は半導体不況の影響を受け、目標はすべて未達となった。2025年3月期は、半導体市場が緩やかな回復基調に転じたことで、収益も回復しROE・ROICが改善した。さらに、2025年3月期のPBR(株価純資産倍率)は1.18倍と、業績回復と配当増、情報開示充実により1倍以上(過去5年平均1.08)を維持した。これは東京証券取引所のプライム市場向け「PBR改善要請(PBR1倍以上)」をクリアしている。2026年3月期は中期経営計画の最終年度にあたり、資本コストを前提にしたROE・ROIC目標10%達成に向けて、さらにもう一段の利益増への取り組みとバランスシートコントロールの強化、加えてPBRのさらなる向上を図る。
5. 「資本コストや株価を意識した経営」の実現
同社では「資本コストや株価を意識した経営」の実現について、“PBR向上=ROE・ROIC改善×PER向上”と定義し、1) 成長投資の推進、2) ROIC経営の実践、3) 情報開示の強化、4) 株主還元を重視の4つの視点で取り組んでいる。資本効率重視の経営の肝となるのは、成長投資の推進である。特に、研磨材・化学工業品における能力増強・研究開発投資の実行が重要だ。最先端半導体分野で研磨材(ソフトパッド)の開発競争で勝ち残っていくためには高水準の研究開発投資を継続し、迅速な投資回収と次の成長投資につなげる、という“キャッシュ・フロー循環”を確立することが肝要であると弊社では考えている。また、ROE・ROIC経営の実践として、事業ポートフォリオ改革を進めている。具体的には、化成品事業では工場の集約を、繊維素材事業では一部事業の休止を行い、経営資源をコア事業の研磨材へ選択的に集中している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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