HFT(高頻度取引)業者は、いかにしてマーケットを出し抜くのか?
もちろん、HFT業者にもいろんなタイプがあるのですが、典型的なHFT業者は、要するにマーケットメイクをしているのです。
マーケットメイクとは、ビッドとオファーを提示することです。ビッドは、ある証券をこの値段なら買ってもいいよと提示する価格のことで、オファーはその逆で売り提示価格です。
たとえば、アップル株が114.375–114.50というような値段で取引されているとしましょう。114.375がビッドで、114.50がオファーです。もちろん、これらには普通の投資家の指値注文も含まれていますが、ここでは、どちらも同じHFT業者が提示しているものだとしましょう。
この状態で他の投資家が確実にアップル株を買おうと思えば114.50ドルで買え、確実に売ろうと思えば114.375ドルで売れることになります。そして、その差額0.125ドルはHFT業者の利益となります。
この0.125ドル、ビッド・オファー・スプレッドと呼ばれるものですが、これは相場変動を予測して利益を上げるものとは性質が違い、仲介手数料と、一時的にポジションをとることのリスク負担料を合わせたものといえます。
当然ですが、このようなマーケットメイクにもリスクはあります。
アップル株を114.375ドルで買った後、それがもっと高い値段で売られるより前に相場が急変し、大きく値下がりしてしまうというリスクです。
HFT業者は、このリスクを可能な限り小さくするために、先物市場や他の銘柄の値動き、他の国の市場動向、各種のニュース速報、取引所における注文動向など、様々な情報をリアルタイムで集め、コンピューターで瞬時に判断しながら、オーダーの水準をきめ細かく変えていくわけです。
とくに相場の急変動が起こりそうなときには、ビッドやオファーをすべて取り消して、余計なリスクをとらないようにすることもあります。
こうしたリスク回避をいかに正確かつ迅速にできるかどうかが、マーケットメイク型HFTの成否を決める要因となります。
バーチュも、このマーケットメイク型HFT業者に分類されています。
もちろん、1,237日負けなしというのはいずれにしてもすごいですが、これは相場の読みを当て続けたというのとは全く性格が異なるのです――
バーチュCEOが語る相場の真実
常勝トレーダーのその後はどうなったのか(ラリー・ウィリアムズの場合)
※本記事の全文(常勝伝説のウソと誠/田渕直也のトレードの科学 Vol.034)もぜひご覧下さい。また田渕直也さんのその他の記事は、無料・有料作品を記事単位で読めるサービス『mine(マイン)』で連載されています。興味のある方はぜひこの機会に講読をお願いいたします。
<田渕直也のトレードの科学~マネーボイスで無料公開中の記事>
・トレードとは何か、その成功の要因とは何か~人がコントロールできるのは期待リターンだけ
・トレーダーの利益の源泉~効率的市場仮説の「つけ入る隙」を考える
・トレーダーを惑わせる「2つのランダム」 アルゴ取引は決定論の夢を見るか?
・「OTMオプションの大量売り」ができるプロとできない一般投資家の“差”
・言い訳をするサル。投資に向いていない「ヒト」という生き物の弱点
・「99%の投資家は小さく勝って大きく負けてしまう…」その一歩先へ!
・ヘッジファンドはこれで儲ける!アービトラージ戦略の様々なアイデア
・心地よすぎて破滅する。コントラリアン(逆張り投資家)が嵌る罠
・「史上最大のボロ儲け」天才ポールソンの手法から個人投資家が学ぶべきこと
・人間はAIに敗れるか?投資の世界に訪れるシンギュラリティ(技術的特異点)
『田渕直也のトレードの科学 Vol.034』より一部抜粋