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レームダックTPP=青木泰樹 京都大学レジリエンス実践ユニット・特任教授

WTO(世界貿易機関)による自由貿易のルール作りが
多数の参加国の利害調整ができずに行き詰まって以来、
特定の国家間での「FTA(自由貿易協定)」が
盛んに結ばれるようになりました。

しかし、この段階は未だグローバル化に至っておりません。
あくまでもモノの動きが主流だからです。
いわば各国にはそれぞれ工場があって、
各々の生産物を交易しているイメージです。

FTAに投資、人的移動、知的財産権などの
共通ルールを盛り込んだのが、
「EPA(経済連携協定)」です。

ここからが形式上はグローバル化の始まりです
(もちろん、FTAの段階でも米国が
「ワシントン・コンセンサス」を振りかざし
途上国に貿易の自由化ばかりでなく
資本の自由化を強制したことはよく知られていますが)。

EPAが、例えば二国間の場合、
同じような経済力を持ち、経済的に補完関係にあり、
民族的にも宗教的にも同系列であれば、
うまく機能するかもしれません。

対等の国同士が共通ルールを作るからです。
その場合は、二か国にひとつの効率的な工場があるイメージです。
しかしこの前提条件を満たすのはかなり難しいでしょうね。

TPPはEPAの拡大版ですから、FTAの側面と
加盟国間の経済ルールの統一化という側面を併せ持っています。

二つの顔があるのです。

TPPを擁護する経済学者は、たいていTPPを
「メガFTA(FTAの拡大版)」と捉えて論じています。

その場合、比較優位の原理に基づいて
自由貿易の利益を上げるのが通常のパターンです。

しかし、経済論理の話には必ず前提条件が付きます。
この場合も、同等の力を持つ者同士が競争すること(完全競争)、
および競争に敗れても失業しないこと(完全雇用)が
前提されていますので、その帰結をそのまま現実に
当てはめることは不適切です。

また自由貿易と言っても全ての品目が
対象となるわけではありません。

安全保障のための戦略物資、その代表は農作物ですが、
その取引に国家が介入しない先進国はありません。
すなわち農業は保護対象なのです。
自由貿易に馴染(なじ)まない。

保護の仕方は二通りあります(併用を含めれば三つ)。
ひとつは「消費者負担」による保護、
他は「納税者負担」による保護です。

前者は内外価格差を消費者に負担させる方法で、
後者は補助金や農家の所得補償を通じて納税者が負担する方法です。

米国やEU諸国では納税者負担の比重が高いことが知られています。

日本の場合、農業への財政措置が
不十分であるにもかかわらず、
今般のTPPで一挙に関税の大幅引き下げを
受け容れようとしたわけですから、
まさに農業を疲弊させ国家の安全保障を
ないがしろにする自傷行為と言えましょう。

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