消費性向は上がっていない
雇用者数も今年1月以降は伸びを高めていますが、これはパートなどの非正規雇用が中心です。
本来ならば給与水準の低いパートが増えれば、平均給与水準は低下します。ですが、先の「毎月勤労統計」では調査サンプルが入れ替わったために、1人当たり賃金も実体を離れて伸びが高まっていました。
両者を掛け合わせた「雇用者報酬」は、その分大きくなったというわけです。
もし1-3月に所得が増えていたのに消費が減っていたとすれば、1-3月の消費性向が低下(貯蓄率が上昇)し、その分だけ4月以降にその貯蓄を消費に回し、そこでの消費性向が上昇し、貯蓄率が低下してもよいはずです。
ところが、4月の消費性向は82.7%と、前年の85.9%から大きく低下し、季節調整後の水準でも3月から0.4%低下しています。そもそも、1-3月も消費性向は低下気味でした。
黒田総裁「所得と消費の前向きな循環が働いている」は大ウソ
少なくとも、黒田日銀総裁の言う「所得と消費の前向きな循環が働いている」との認識は、こと個人消費ではあてはまりません。
勤労者も年金生活者も、所得が減少しているために消費を増やせない状況にあります。
財務省の「法人企業統計」から、安倍政権発足当初の2013年1-3月期と、5年が経った今年1-3月期とを比較してみると、企業の経常利益はこの間に40%増加し、企業の内部留保は284兆円から427兆円に50%も増えた半面、企業が支払った人件費は5年前の41.4兆円から43.7兆円と5.5%しか増えていません。
拡大した企業の利益は、人件費で還元されずに、企業の内部留保にたまる構図で、黒田総裁の「所得から支出への前向きな循環」は、企業の内部留保によって切断された形になっています。
国民全体が防衛的な消費パターンへ
年金世帯のみならず、勤労者世帯でもなかなか所得が増えない状況が続くだけに、おのずと消費パターンも防衛的になっています。
年金世帯では貯蓄の取り崩しをなるべく少なくするよう、つまり節約して消費性向を抑制しています。
この4月の消費性向は67.1%で、前年同期の72.7%から目立って低下しています。自動車の買い替え、維持補修を抑制しているのが目立ちます。
また所得が増えない中で、物価上昇は直接、家計に響きます。4月の消費費目のうち、原油高で価格が上昇した電気ガスの消費を5.6%減らしています。単価が3.4%も上昇しているためです。またマグロを中心に魚介類の価格が上昇したため、この分野の消費抑制が、消費全体を0.21%下押ししています。
総じて物価が上がった分の消費を抑制しています。冠婚葬祭の祝儀、香典など「贈与」も減少しています。
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