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黒田総裁の説明に疑問符。本当に異次元緩和で物価は上がったのか?=久保田博幸

日銀の黒田東彦総裁は質的・量的緩和政策が物価上昇に効果があったかのように言うが本当にそうなのだろうか?日銀の発表する都合のよさそうなグラフを見ても、現実にはその効果は認められない。そもそも金融政策で物価が動いているという解釈ができないのだ。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

異次元緩和は物価上昇に効果があったのか?

肝心の物価目標は前年比でわずかプラス0.3%

11月30日の黒田東彦日銀総裁の講演において、以下のような説明があった。

生鮮食品とエネルギーを除くベースでみた消費者物価の前年比は、「量的・質的金融緩和」導入以前はマイナスで推移していましたが、13年10月にプラスに転じました。その後は25か月連続でプラスを継続しており、今年10月には+1.2%まで上昇しています。このように物価上昇が持続するのは、90年代後半に日本経済がデフレに陥って以来、初めてのことです

日銀の質的・量的緩和政策、いわゆる異次元緩和を決定したのが、2013年4月であり、それから半年程度のタイムスパンを置いて、効果が発揮されたかのような説明である。ただし、日銀の物価目標はそもそも生鮮食品とエネルギーを除くベースではない。その目標であるところの総合指数は今年10月で前年比プラス0.3%に過ぎない。

日銀は目標とする物価が上がるどころかゼロ%近辺にいるため、物価の基調はしっかりしていることを示そうと、消費者物価の発表に合わせるかたちで11月27日から、除く生鮮食品・エネルギーなどの試算結果をサイト上で公表した。(出典:消費者物価の基調的な変動[PDF] – 日本銀行

日銀が発表した10月総合(除く生鮮食品・エネルギー)は前年比プラス1.2%となった。この発表にはグラフも掲載されており、異次元緩和の効果を示そうとしたものであろうが、このグラフを見ても、はたして異次元緩和によって物価に影響を与えたのかどうかは疑問である。

物価トレンドと日銀の金融政策を結びつけるのは無理がある

日銀の総合(除く生鮮食品・エネルギー)のグラフをみると、異次元緩和の少し前からゼロ%に向けての上昇が始まっており、2013年度中に前年比でプラスに転じた。

しかし、大きなトレンドで見ると今回の物価の回復は2010年あたりをボトム(底)に起きていることがわかる。

日銀が示すグラフは2001年以降のものであるが、特に「上昇・下落品目比率」のグラフで見ると良くわかるが、2002年をボトムとして2008年まで上昇を続けたあと、いったん大きく落ち込み2010年をボトムに回復している構図となっている。(出典:消費者物価の基調的な変動[PDF] – 日本銀行

これを日銀の金融政策と無理矢理結びつけると、2001年から2006年にかけての量的緩和が功を奏して物価が上昇するが、その後2006年から2007年にかけて利上げを行ったことで物価の上昇にブレーキが掛かった。しかし、2010年に自然にボトムをつけて日銀の異次元緩和で物価上昇に弾みをつけたとの見方をすれば良いというのであろうか。

このように日銀の金融政策と物価のトレンドを結びつけて説明する方が実は無理がある。2002年以降の物価の回復は、日本の不良債権問題の後退などが影響していた。その象徴的な出来事に2003年5月の「りそな銀行」に対する資本注入がある。

大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607.88円がバブル崩壊後の安値となり底打ちした。

米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め、その後上昇基調を強めた。その結果としての物価上昇との見方が素直ではなかろうか。

異次元緩和は物価に効いていない

さらに2008年からの物価の急激な下落は、サブプライム問題を発端としたリーマン・ショックなどの金融経済ショックによる影響とともに、中国などの新興国経済バブルが意識された原油価格の急騰とその反動による急落が日本の物価下落の要因となっていた。この際の物価の動きについては日銀の金融政策が影響していたとの解釈の方が無理があろう

そうなれば2010年以降の物価の基調回復は、欧州の信用不安は起きたものの、原油価格の底打ちとともに、日欧米の積極的な金融緩和も手伝っての「リスク回避」の動きも収まり、その結果、景気とともに物価の基調も好転した。

たしかに金融緩和が回復の土壌を作ったことは確かだが、金融政策はあくまでリスクを抑えたに過ぎず、しかもこのときの日銀は異次元緩和はしていない

日銀は2013年4月の異次元緩和後の物価の動きについて都合良く解釈したいようだが、その都合の良さそうなグラフをみても、現実には異次元緩和の効果は認められない、というよりも、そもそも金融政策で物価が動いているという解釈ができないものとなる。

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牛さん熊さんの本日の債券』2015年12月1日号より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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