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自社株消却、過去最大の5兆3,000億円に。なぜ今ヤフーやドコモほか各社が実施する?=矢口新

2018年度は3年ぶりの過去最高となる自社株の消却が進んだ。株式を消却するというのはどういうことなのか、またどんな背景で行われたのかを解説します。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

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プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

自社株消却が15年度以来の3年ぶりで過去最大に

自社株の消却は株主へのメリットが大きい

2018年度の上場企業による自社株の消却額が5兆3,000億円強と、過去最高を更新する。うち、18年度の自社株買いからの消却が約4兆5,000億円で、残りは過去に市場から買い取り「金庫株」として保有してきた分を消却する。「消却」は自社株買いをさらに推し進める財務上の選択肢といえる。

消却額は17年度の約2兆8,000億円から約2倍に急拡大し、15年度以来、3年ぶりに最高を更新する。NTTドコモは約1兆1,500億円、ヤフーは2,000億円相当を消却。東芝や昭和シェル石油など初めて自社株を消却する企業も45社にのぼる。

企業が自社株を買い入れると、市場で流通する株式数が減少し、需給がタイトになる。買い入れた自社株は当面、金庫株として保有することが多いが、その場合でも会計上は自己資本から差し引く処理をする。利益(Return)が同じでも、自己資本(Equity)が小さくなるので、「自己資本利益率(ROE)」が向上する。

企業は金庫株を「M&Aの対価」「株式報酬として従業員に割り当て」「資金調達のために再売出し」などと活用することもできる。売り出しなどの形で市場に放出されると、自己資本は再び膨らみ、市場での株式需給も緩むことになる。一方、金庫株を消却してしまえば、こうした懸念はなくなる。

また、発行株式数が減った分、利益が同じでも1株益が大きくなる。

なぜ、自社株を消却するか?企業の発表の多くは「株主への還元策」となっている。需給がタイトになり、ROEが向上し、1株益が大きくなれば、株価上昇の大きな要因となるからだ。

自己資本を減らして借入金で経営をした方が、実際にROEが向上するので、「稼ぐ力」が高まったと評価される。つまり、自己資本比率が下がり、有利子負債が増えた方が、経営力が高いとされるのだ。

この辺りのテクニカル要因については、不思議な感じを覚える方々もおられると思う。

NTTドコモとソフトバンクのROEで比較

実例として、上記のNTTドコモ<9437>とソフトバンク<9434>のROEを比較してみよう。数値は、前期、2期前、3期前の順だ。

9437:ROE(自己資本利益率) 13.28% 12.05% 10.27%
9434:ROE(自己資本利益率) 36.57% 28.96% 26.49%

ROEを見ると、圧倒的にソフトバンクが強い。ところが別の尺度では、

9437:EPS(一株当たり利益) 201.73円 175.12円 141.30円
9434:EPS(一株当たり利益) 100.55円 107.53円 97.37円

EPSでは、反対にNTTドコモが圧倒する。この秘密は、自己資本比率にある。

9437:自己資本比率 73.3% 74.2% 73.5%
9434:自己資本比率 13.9% 32.8% 31.6%

ROEとは、利益を自己資本で割るので、自己資本が大きいと数値が下がるのだ。ちなみに、利益を総資産で割ると、これほどの差は出てこない。

9437:ROA(総資産利益率) 9.80% 8.90% 7.64%
9434:ROA(総資産利益率) 8.39% 9.33% 8.38%

総資産とは、自己資本と負債とを合わせたものなので、このような数値マジックが出来上がる。つまり、米国式の会社経営、並びに投資判断基準では、自己資本を減らし、有利子負債を増やすと、経営力が高いとされるのだ。

※参照:NTTドコモ<9437>
※参照:ソフトバンク<9434>

Next: 企業が自社株消却を進める背景にあるものとは?

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