GSOMIA破棄が韓国へ不利益をもたらす
韓国国内でGSOMIA破棄は、韓国へ不利益をもたらすという議論が増えている。その1つを取り上げたい。
文政権は、南北の信頼構築、特に軍事的な信頼構築を強調し、反面で米韓・日米韓軍事協力を弱体化させる方向に進んでいる。こうした姿勢は、韓国がこれまで維持してきた伝統的な外交・安保の軸から離脱する兆候に見えるようになった。ここには、親米より親北朝鮮の要素が強く現れているのだ。中国に対しては沈黙し順応する姿勢を見せながら、日本には強く反発し、不買運動を展開するという極端な違いを見せている。
中国に対して沈黙順応する裏には、次のような「三不政策」が根拠になっている。これは、朴政権が2016年7月、韓国東部に米軍のTHAAD(超高高度ミサイル網)設置を決めたこと。中国が、これに強く反対して韓国へ経済制裁を加えて現在に至っている。
文政権は、中国に対し、次のような約束の「文書」を書かされている。
<中国に対する「三不政策」>
(1)THAAD追加配備中止
(2)ミサイル防衛(MD)不参加
(3)日米韓の安保協力を3カ国軍事同盟に発展させない
上記のの3箇条である。いずれも中国語表記では不可を意味する「不」が入るため「三不」と呼ばれるものだ。
GSOMIAは、前記の「三不」のうち、(3)に該当する。文政権は、これを根拠にしてGSOMIA破棄を決めたのでないか、という憶測もされている。
米国が、神経を使っている点はこれだが、後で取り上げる。
文政権の歴史修正主義が問題
文政権は、民族主義に基づき、韓国現代史に対する修正主義的解釈を加えている。
具体的には、北朝鮮の金日成が唱えた「チュチェ(主体)思想」を信奉していることだ。これによる「親中朝・反日米」路線が、文政権の外交・安保戦略に組み込まれている可能性を否定できないのだ。中国に対しては、経済制裁されても従順に振る舞う。一方、日本が「ホワイト国除外」をすれば烈火のごとく怒り、「反日不買運動」を煽る。こういう極端な違いは、「チュチェ思想」の影響なのだ。
問題は、この「親中朝・反日米」路線がもたらす地政学的リスクに対して、韓国がどれだけ耐えられるのかだ。
中朝は、朝鮮戦争を仕掛けた「侵略軍」である。文政権は、中朝を侵略軍」と見なさず、「民族統一戦争」として位置づけている。この歴史修正主義に立つと、韓国が再び、中朝から手痛い打撃を受けるリスクを抱えるのだ。先の「三不政策」は、まさに歴史修正主義の顕著な例である。
韓国経済は、今後の少子高齢化によって一段と厳しくなる。その上、「親中朝・反日米」に伴う安保リスクが拡大すれば、外交的に孤立する懸念が強まる。
GSOMIA破棄は、以上のような潜在的なリスクを秘めた危険な政策選択になろう。文政権は、民族主義という狭い視点でGSOMIA破棄を決めた。感情論に流されており、すでに大局的視点の「日米韓3ヶ国の安保ライン維持」が消えているのだ。