韓国文政権は、南北統一を目指した「世紀の離れ技」を狙っている。その第一歩として主敵を北朝鮮から日本へ変更したが、米韓同盟が壊れかねない危険な行為だ。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2020年10月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
主敵を北朝鮮から書き換え「周辺国(日本)」に
韓国文政権は、南北統一を目指した「世紀の離れ技」を狙っているように見える。「まさか」と思われるだろうが、文政権登場以来の北朝鮮への接近ぶりは、すでに外濠を埋め、次は内堀を埋める準備に取りかかっている。
それは、韓国軍の「主敵」が従来、北朝鮮と明確に規定されていた。文政権は、すでにこの主敵を書き換えたのである。北朝鮮を削除して、「周辺国」を主敵にしたのだ。非公式では、日本が主敵の位置になっている。
一昨年12月、日本海で偵察任務に就いていた日本の自衛隊哨戒機が突然、韓国艦から攻撃用レーダー照射を受けた事件が発生した。これは、日本が韓国の「主敵」という位置づけになっている結果である。
文政権は、韓国軍の主敵をこのように180度変えることに成功した。
統帥権移管要求はトリック
問題は、このことが韓国にいかなる「運命」をもたらすかという点である。
文政権は現在、文大統領の任期である2022年5月までに、韓国軍の作戦指揮権(統帥権)を在韓米軍から取り戻す交渉を始めている。一見、ごく自然の要求のように見えるものの、これには巧妙な仕掛けがされている。
北朝鮮軍が38度戦を超えて侵入してきても、韓国軍の主敵は北朝鮮でない以上、韓国が統帥権を握っていれば韓国軍の出動命令が出されず、北朝鮮によって韓国占領が可能になるのだ。
これほど、統帥権問題は韓国の運命を左右する重大な案件である。
在韓米軍は、韓国文政権の不純な意図を察知しているのか、統帥権問題には拒否反応を見せている。北朝鮮が、先の軍事パレードでICBM(大陸間弾道ミサイル)などを展示したことから、米国の警戒観は強まっている。韓国が、この段階で統帥権を持ち出していることと重ね合わせて、韓国の動きを一段と詳細に分析している。
文大統領は9月22日の国連演説で、持論の朝鮮戦争終結宣言を出すように主張した。北朝鮮が核放棄をしない段階で、朝鮮戦争終結宣言が出れば北の核保有を認めたのも同然のことになろう。これまで、核放棄を約束しながら実行しなかった北朝鮮が、朝鮮戦争終結宣言を悪用するのは自明のこと。あまりにも迂闊な話である。
これについて、在米韓国大使は次のように説明している。
「終戦宣言はそれ自体が目的ではなく、停戦協定に代わるものでもなく、停戦協定を破棄するのとは性格が異なるとし、単なる政治的宣言」である。この説明によれば、終戦宣言を出して、米朝交渉を円滑に進めようというに過ぎないとしている。だが、これほど実質的な意味のない宣言もないだろう。北朝鮮が、核製造を続けている一方で、米韓が終戦宣言をすることは、外交交渉であり得ない愚策である。
文氏が、本気でこの終戦宣言に拘っているとすれば、大統領としての役割を放棄した無責任な態度だ。空想家と呼ぶべきである。