投資家の間で高い注目を集めている「サンリオ<8136>」について、その株価がなぜこれほどまでに伸びたのか、その背景にある経営改革やキャラクター戦略、そして今後の株価の行方まで、多角的に深掘りしていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
サンリオ株、なぜこれほど伸びたのか?
サンリオの株価は、コロナ禍前後(約500円~700円)から、現在では6,000円~7,000円台にまで上昇しており、実に約10倍、いわゆる「テンバガー」を達成しています。

サンリオ<8136> 週足
(SBI証券提供)
この驚異的な株価上昇の背景には、明確な業績の伸びがあります。
具体的には、売上が約3倍、営業利益が約10倍にまで拡大しているのです。コロナ禍前の2019年には売上高約591億円、営業利益約47億円でしたが、現在では売上高約1,600億円、営業利益は500億円~600億円規模にまで成長しています。これはV字回復どころではない、まさに飛躍的な成長と言えるでしょう。
業績を牽引した要因とは?
サンリオがこれほどの業績を達成できた最大の理由は、経営改革を断行したことにあります。その改革は大きく3つの柱で構成されています。
<改革その1. 組織・商品管理体制の抜本的変更>
サンリオは2019年から2021年のコロナ禍で赤字に陥るなど、苦しい時期がありました。この時期のサンリオは、組織としての管理がほとんど行われておらず、具体的な戦略も抽象的で、いわば「ふわっとした経営」が続いていたのです。人気キャラクターに頼り、何もしなくても売れるという「あぐらをかいた」状態だったとも言えるでしょう。
しかし、改革後は大きく変わりました。例えば、赤字だったアメリカの小売店を閉店したり、複数のバックオフィスを統合して販管費を削減したり、ライセンスパートナーを見直すといった具体的な施策が実施されました。また、地域ごとの市場特性を考慮したマーケティングも強化されました。これは、本来IPビジネスを行う上で「当たり前のことを当たり前にやる」という、基本的な企業運営の徹底に他なりません。
<改革その2. リーダーシップの変革:孫社長の就任>
この抜本的な改革の大きなきっかけとなったのは、社長の交代です。2020年7月、創業者の辻信太郎氏のお孫さんである辻朋国氏が、31歳という若さで社長に就任しました。
実は、辻朋国氏が就任する前の約10年間(2010年代前半から2020年頃)は、サンリオにとって「空白期間」だったと言われています。本来の後継者であった創業者の長男、辻邦彦氏が2010年に急逝してしまったため、実質的な指揮官が不在の状態が続いていたのです。この期間は、業績も右肩下がりとなっていました。
若くして社長に就任した辻朋国氏は、まず社員との対話の時間を設け、組織内部の不満や問題を把握しました。同時に、自身のビジョンを社員に伝え、全社的な改革の地ならしを行いました。さらに、彼は外部から経験豊富なプロフェッショナル人材を積極的に招き入れ、経営陣の若返りも図りました。元々平均65歳だった経営陣の平均年齢を、20歳も引き下げて約40歳前後まで若返らせたことで、より機動的な経営体制が築かれました。
<改革その3. SNSの積極的な活用とグローバル戦略>
経営改革のもう一つの柱は、SNSの積極的な活用です。コロナ禍で多くの人がYouTubeなどを視聴するようになったことに合わせて、サンリオはTikTokやInstagramといったプラットフォームで、キャラクターの個性や物語を積極的に発信するようになりました。
サンリオのYouTubeアカウントでは、3,200万再生を記録する動画もあり、2021年のアカウント開設からわずか数年で、約320万人のチャンネル登録者数、年率103%という驚異的な成長を達成しています。現在、全世界のアカウントを合わせると約8,000万人のフォロワーを抱えるまでに至っています。
特に注目すべきは、このSNS戦略が海外で大きな成功を収めている点です。Instagramのフォロワー数もアメリカのアカウントが約330万人であるのに対し、日本は約30万人と、桁が一つ少ない状況です。

サンリオの売上を地域別に見ると、青色の日本も伸びてはいますが、それ以上に黄色の北米が大きく成長していることが分かります。決算資料では日本の売上比率が高く見えますが、その中に海外ロイヤリティが含まれており、実質的には海外売上比率が50%を超えていると見られています。中国や韓国を含むアジア地域でも、現地のゲームとのコラボレーションなどによりIP発信を強化し、成功を収めています。
さらに、「聖域への手入れ」と呼ばれる商品ポートフォリオの最適化も行われました。かつて5,000アイテムほどあったグッズの中から、ました。これにより、在庫廃棄の無駄を排除し、コスト削減に繋げています。また、人気が低く業績に貢献しにくいキャラクターについては、「お出かけ」という名目で、今後の商品開発を見送るという大胆な整理も行われています。これはまさに、「選択と集中」を進めた結果であり、経営効率の大幅な改善に貢献しています。
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