シマノ<7309>について詳細に取り上げたいと思います。シマノといえば、自転車部品や釣り具を取り扱う企業であり、特に自転車の足回り部品については、世界シェアの約8割を誇る、日本が誇る非常に強力な製造業の一社です。
しかし、そのシマノの株価が直近1年間でなんと40%以上も下落している状況です。さらに、7月末の直近決算では下方修正が発表され、その時点から見ても株価が30%弱下落してしまいました。
自転車や釣りはコロナ禍で発生したアウトドアスポーツの特需の反動減が続いている、という憶測がある一方で、今回の分析ではそれとは少し違った事実も見えてきました。シマノの足元の状況と、今後の投資対象としての是非を詳しく見ていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
株価と業績の確認:コロナ特需と回復の試練
シマノの株価は、2024年8月頃には2万8,000円を超える水準でしたが、その後軟調に下落し続け、直近の決算で下方修正が発表されたタイミングでさらに大きく下がり、9月19日時点では1万5,955円まで下落しています。

シマノ<7309> 週足(SBI証券提供)
<コロナ特需と利益率の低下>
シマノの業績は、長期的にはなだらかな右肩上がりでしたが、コロナ禍でできるアウトドアレジャーとして特需が発生し、2021年と2022年に売上・営業利益ともに急拡大しました。
特需が剥落したのが2023年です。足元では、売上はなんとか持ちこたえている状況ですが、それに対し利益は下がり続けている点が特に注目されます。
<平常モードへの期待と下方修正>
四半期ごとの推移を見ると、特需剥落の影響で対前年比は一時大きく落ち込みましたが、2024年の最終四半期頃には前年割れしなくなり、ようやくコロナ特需剥落の底を打ち、平常モードに戻ってきたかのように見えました。
しかし、直近の決算では、売上自体は対前年を上回ったにもかかわらず、営業利益は-3.7%となり、これを受けて下方修正をせざるを得ない状況になりました。
下方修正を引き起こした2つの主要因
平常モードへの移行が見え始めた中で、なぜ大幅な下方修正が必要になったのでしょうか。これには主に2つの大きな要因があります。
<1.為替の悪影響:アジア通貨高>
下方修正の理由の一つとして、為替の悪影響が挙げられます。決算短信では、「ドル安の進行に伴うアジア通貨高の影響」により、為替評価損の営業外費用が増加したと説明されています。
シマノは、シンガポール、マレーシア、インドネシア、中国などアジア諸国に大規模な製造工場を持ち、現地法人との取引を現地通貨で行っています。これらのアジア各国の通貨が、対ドルや対ユーロに対して通貨高の傾向が高まった結果、為替評価損として計上され、経常利益に影響を与えています。
実際に、前年時点で約130億円の為替差益があったのに対し、今年は逆に約216億円の為替差損が発生しており、この悪影響の大きさがわかります。
<2.中国市場の景況感悪化と在庫調整>
もう1つの要因は中国市場の悪化です。
シマノは、中国市場等での在庫調整が継続する見込みであり、生産調整局面において経費の上昇による利益率の低下が見込まれるとしています。この影響が営業利益に約240億円程度効いてくることとなり、これが大幅な下方修正につながりました。
シマノは釣り具も取り扱っていますが、釣り具の売上構成費は全体の約2割程度です。釣り具はコロナのピークよりは下がっているものの、大きな売上減少は発生しておらず健闘しているため、シマノの業績のポイントは、やはり自転車部品にあることが分かります。