3.異次元緩和から5年後の2018年、インフレ率が2%を超え3%に上がったとする
■質問
T氏は、日銀が国債を買えば、その分政府の負債は減るから、財政破産はあり得ないと言っています。これは正しいでしょうか?
■答え
端的に言って誤りです。T氏の偽説は、異次元緩和が消費者物価を2%上げるという目標を、2年遅れくらいで達成したとき、誰の目にも明らかになります。
消費者物価の上昇が2%になることが定着してくると、人々の期待インフレ率が2%に上がってきます。
期待インフレ率は、期待金利を上げるように働くのです。「理論的な期待金利=期待実質GDP上昇率+期待物価上昇率」です。
人々の予想が、
- 実質GDPは1%上がるだろう
- 物価は2%上がるだろう
という予想に変わっていくと、理論的な期待金利が、「1%+2%=3%付近」に上がってきます。
例えば米国では、インフレ率は2010年が1.6%、2011年3.1%、2013年が1.5%、2014年が1.6%でした(年平均)。2015年は、原油価格のの下落から、0.09%に下がっています(10月時点)。
※アメリカのインフレ率の推移 – 世界経済のネタ帳
それに対応する長期金利(10年債の利回り)は、2010年平均3%、2011年2%、2013年3%、2014年2%付近です。長期金利と期待インフレ率は、ほぼ比例しています。期待物価上昇率は、長期金利の原因になるものです。
(※注)現在の日本では、消費者物価上昇も0%、長期金利0.27%です(15年12月)。消費税の増税後(14年4月~)の物価の上昇率の低下ともに期待物価上昇率も下がり、同時に長期金利も0.50%(15年6月)から0.27%に下がっています。日本の物価も、インフレ目標を達成して2%や3%上がるようになると、期待金利も2%には上がります
2018年度末時点では、0.1%しか利回りがない日銀の当座預金に487兆円も置いている金融機関は、期待金利が2%に上がった時、このまま置いておくことはできません。日銀から国債を買って、自行が預けている当座預金を減らす必要が出てくるのです。銀行が預かる預金金利も上がり、資金需要が増えて貸出の金利も上がるからです。
期待物価上昇が2%になると、日本も「流動性の罠」から脱出して、米国のように「貨幣数量説」が復活します。
(※注)貨幣数量説とは、〔M(マネーサプライ量)×V(流通速度)=P(物価水準)×T(実質GDP)〕です。インフレになって金利が、ゼロを脱すると、このように、マネーサプライの増加が、物価とGDPを上げるようになります。これが貨幣数量説の復活です
このとき日銀は、
- 当座預金の金利を2%(期待金利)に上げる
- 国債を売って金利を上げる
いずれかをを迫られます。つまり日銀は量的緩和を停止し、出口政策に向かわねばならない時期に至るのです。
日銀が国債を売ると、国債は下落し利回りは上がります。そのときの期待物価上昇率が2%付近なら、国債の利回りも2%近傍になるように上がるのです。この時は、日銀が金融機関に国債を売りますから、以下の、日銀が100兆円の国債を売ったときの取引が行われます。