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中国で「わりかん保険」が大流行。治療費払い渋り防止の斬新な仕組みとは=牧野武文

アリババ系「相互宝」の特徴

細かな点はそれぞれで異なりますが、先ほど掲げたネット互助の4つのメリットはいずれも共通しています。アリババ系の「相互宝」を例にどのようなものかを見ていきましょう。

まず、加入が驚くほど簡単です。スマホ決済「アリペイ」の中にある相互宝ミニプログラムから簡単に加入することができます。

ネット互助は保険商品ではないというところがミソで、加入をするのに医師の診断書なども必要ありません。「過去2年以内に、30日以上の連続した投薬治療、15日以上の連続した入院治療がない」「示した病気の診断を受けたことがない」「6ヶ月以内に体重が5kg以上減少していない」などの条件に「はい」と答えればば加入できます。

自己申告なので、病気を隠して「はい」ボタンをタップできてしまいますが、互助金支払いの時に虚偽申請が発覚すると資格を失うことになります。現在、そこまでしているかどうかは公開されていませんが、アリペイの決済履歴から通院や医薬品購入もわかるため、人工知能による虚偽申請チェックを行っているか、近い将来行われるようになるはずです。

また、観察期間が90日間設けられています。加入をしてから90日以内は、互助金支払いを申請することはできません。これは、病気になってから加入をし、互助金支払いをすぐに申請することを防ぐためです。また、この期間に病気の診断を受けても、互助金の支払いは行われません。

芝麻信用スコア(ジーマクレジット)が650点以上あることも必要です。これは高い点数ではありません。キャッシング返済の遅滞などがなければ、普通の人はまず問題ありません。

つまり、大きな持病がなく、普通に生活している人であれば、アリペイアプリの中からボタンを1つタップするだけで加入することができるのです。

保険金の「出し渋り」がない画期的な仕組み

現在、相互宝には、4つのメニューがあります。その内の3つは疾病互助で、悪性腫瘍を中心とした重い病気に対して、10万元から30万元(約470万円)の互助金が支払われます。リスクによる公平性を保つため、59歳以下と60歳以上で別のメニューになっています。

もうひとつは、公共交通傷害保険で、飛行機、鉄道、地下鉄、タクシーなどの事故でケガをした場合に、最高100万元(約1,580万円)の互助金が支払われます。

加入をすると、毎月14日と28日の2回、分担金の計算が行われ、その額がアリペイから自動的に支払われます。メインメニューである「99種類の大病+悪性腫瘍+希少疾病5種」をカバーする「大病互助計画」では、2019年初めの分担金額はわずか0.3元(約5円)でした。それが最近では、互助金支払いが実行され、4元(約60円)前後に上昇をしてきています。それでも月の分担金は100円強です。

この分担金の額は、互助金支払いに8%の管理費を加え、会員数で頭割りしたものになります。この定率管理費の仕組みも、地味ながら大きな変化です。つまり、運営会社は互助金支払いをすればするほど儲かる仕組みになっているのです。なので「出し渋り」が起きません。従来の保険の仕組みは定額の保険料を集めて、保険金支払いを行い、残りが運営会社の利益となります。そのため、保険会社は保険金を支払わない方が儲かります。そこで、出し渋りが起きてしまうという批判がありました。

もちろん、さまざまな規制、監査などがあり、実際は、保険会社がこんな単純な利益追求をしているわけではありませんが、ベクトルは、従来の保険では「出さない」、ネット互助では「出す」方向に働くのです。

Next: なぜ分担金は跳ね上がらない? 当局の規制がうまく機能

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