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中国共産党100周年で見えた5つの衰退ルート。権力維持が目的の「浮遊経済」へ成り下がる=勝又壽良

ひ弱な内需主導経済基盤

中国は、こういう新事態の出現に対してどのように対応するのか。

すでに、「内循環性経済」を打ち出している。内需を中心にして経済循環を図るもので輸出への依存度を下げるという内容である。内需が中心となれば、個人消費はその軸になる。名目GDPに占める民間最終消費支出は、38.95%(2019年)に過ぎない。極めて低レベルである。

中国政府は、この過少な個人消費をカムフラージュするべく、政府最終消費支出を加えた「最終消費支出」比率55.66%をあたかも個人消費として発表する「ウソ行為」を行なっている。世界のマスコミはまんまとこれに騙されて、「中国の個人消費は55%」と報じているところもある。正直正銘な民間最終消費支出比率は、世界212ヶ国中で195位とどん尻に近いところに沈んでいるのだ。

この中国経済が「内循環性経済」に移行したならば、中国は「中所得国のワナ」から抜け出せず、国民1人当たり名目GDPは万年「発展途上国」に止まるリスクと同居する。「中所得国のワナ」とは、1人当たり名目GDPが1万数千ドルに止まって、2万ドル台後半に達しない事態を指している。

中国は、その瀬戸際に立たされている。今後の潜在成長率は、総人口に占める生産年齢人口比率の減少によって、急カーブの右下がりに転じる。この段階で、輸出や海外直接投資の門が狭められれば、中国経済は完全に干し上げられるのだ。

これまでEUは、中国に対して経済面での関係を考慮して、日米と異なり地政学的なリスクを重視せずにきた。そのEUが、日米が主導する中国警戒論に賛成するようになった。先のG7の共同声明で、台湾問題を取り上げたのがその現れだ。

また、NATOがインド太平洋戦略に同意し、来年までに「新戦略概念」を発表する予定である。このように、EUまでが中国に対して平和を乱す潜在的危険分子に指定する動きを強めている。

その具体的な動きが、インドをめぐるEUと英国によるFTA(自由貿易協定)締結への動きに見られる。

「脱中国」で成長するインド

インドは2013年以降、EUとFTA交渉を中断したままだったが、この5月に英国とEUとそれぞれ交渉を始めることになった。そのきっかけは、中国の勃興にある。互いに中国の存在を意識して、経済面で「脱中国」を目指している結果である。

インドが2019年11月、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の調印寸前にUターンしたのは、中国の影響が高まることを警戒した結果である。中国経済の影響がより強くなることを忌避したもの。インドが「脱中国」を実現するには、EUや英国とFTAを結んで関係を強化すれば、中国市場と代替可能と見たのであろう。2013年以降、交渉を中断していたEU・英国との交渉を復活させるのがベターと判断したものだ。

現在の欧州側の貿易構造では、インドのウエイトは1%以下と僅かである。EUと英国において、いずれも10位以下だ。それにも関わらず、なぜインドとのFTAを急ぐのか。英国の事情は、EUから脱退した後の貿易の穴をアジアで埋めざるをえない。とりわけ、将来のインド経済の成長に期待する部分が大きい。EUも事情は同じだ。英国がインドと有利な関係を結ぶならば、EUも傍観はできないのだ。

こうしたEUと英国のインド経済に対する見方は、インドの将来の発展性を買っているものである。このように、インドへ駆り立てている裏には、中国関係の見直しがある。インドは、土壇場でRCEPに背を向けたように保護主義的になっている。それでも英国とEUは、中国をけん制すべくインドとのFTA交渉を始めざるを得ないのである。

中国の戦狼外交が、欧州をインドと接近させた接着剤である。皮肉な話である。

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