一般トレーダーに対するディーラーの優位性とは何か
呑むからには、ディーラーにはそれなりのレートに対する読みがあります。顧客のロングポジションを呑むということは、レートが下に動く予想(少なくとも、大きく上に行くことはない予想)をそのディーラーが持っている、というわけです。
レートの上下どちらかの動きに賭けている、という点では一般のトレーダーと一緒ですが、トレーダーはチャートやニュースしか判断材料を持っていないのに対して、ディーラーは顧客の注文動向を判断材料にすることができるのが決定的に異なる点です。注文動向とは、注文件数や注文ロット数、顧客の売買の偏り、新規/決済の偏りです。
熟練したディーラーは、おそらくそういう注文動向の雰囲気を直観的に感じる「野生の勘」を持っているはずで、うまい具合に顧客のポジションを呑むことによって利益を出すことができます。
個人投資家は負ける運命?
なお筆者は、あるFX会社との契約で、そのディーリング判断の一部をソフトウェアで置き換えるプロジェクトのために顧客の一定期間の全注文データを分析したことがありますが、その中でとても面白い事実に気づきました。
それは、「トータルすれば個人投資家は負ける」です。
FX会社には多数の顧客がいて、その中には本当に巧いトレーダーもいるのですが、全員の損益を合計すれば長期的にはマイナスなのです。スプレッドがあるからではなく、仮にスプレッドが0だと仮定してシミュレートしてもやはりマイナスになります。
逆にいえば、FX会社を経由したりしない、本当のプロが勝っているしわ寄せが個人投資家に行っているということになります。
その事実に基づけば、FX会社は一切カバー取引をせず、全部の注文を呑んでしまえば、短期的に損失を出すことがあっても長期でならせば勝ってしまうということになります。
「ディーラーの損益構造の基本」まとめ
今回のまとめとして、冒頭の4種の状況と損益構造を整理しておきます。
(A) レートが動かない+カバーしない 顧客の売買注文が相殺して スプレッド分が全部利益となる |
(B) レートが動く+カバーしない 顧客の損は自分の利益、 顧客の利益は自分の損。ハイリスクハイリターン |
(C) レートが動かない+カバーする 場合により赤字だが、額は小さい |
(D) レートが動く+カバーする 基本的に損益0となる |
実際には、この4パターンのどれかにぴったりあてはまるわけではなく中間の状態がいろいろありますし、時々刻々と相場の状況は変化するものですが、これがディーラーの損益構造の基本になります。
次回は、これまでに書ききれなかったトピックをいくつか紹介しましょう。そろそろこの短期連載も終わりに近づいてきました。
岡嶋大介(ソフトウェア作家兼投機家)
株式会社ラガルト・テクノロジー
「ラガルト」はスペイン語で「とかげ」です。2005年10月に、私がバルセロナに旅行したときに訪れたグエル公園の有名な像を見て思いつきました(この像はとかげじゃなくて蛙という説もあるのですがまあいいですよね)。この会社は、どちらかというと私の個人的な活動を下支えする色彩が強いので、自分の気に入ったものを使って命名しようと思いました。この他、最近は更新が滞りがちですが、個人のtwitterアカウント、blogがそれぞれあります。