数はこなしても所得が増えない
それでも円安はプラスという材料になったのが、日銀などが利用するマクロ経済モデルの存在です。
これによると、外生的要因として為替を円安にすると、実質GDPは増える結果となります。これは輸出数量が増えて生産増となる一方、輸入コスト増で輸入が減り、これも国内生産にはプラスとなるためです。
しかし、その一方で日本は円安で海外に安売りをし、数はこなしても(実質GDP増)、採算の悪化から所得が増えない「ただ働き」を余儀なくされます。
例えば、円安が進んだ昨年の実質GDPは1.6%成長でしたが、所得面から見た実質GNI(国民総所得)は0.4%成長にとどまっています。
つまり、GDPベースでわずかながら成長をしても円安で国富が海外に流出し、国民所得が増えない状態が続いています。
実際、OECDのデータによると1人当たり国民所得や賃金水準はこの20年間、日本ではまったく増えず、世界から取り残され、OECD加盟38か国の中で23位まで低下し、お隣の韓国にも抜かれる事態となりました。
円安で困る人が多数
円安には確かにプラス・マイナス両面があります。
黒田総裁は円安で輸入物価が上がるといっても、輸出物価も上がると言っています。その通りですが、今年2月の輸入物価は円ベースで前年比34.0%の上昇となったのに対し、輸出物価は12.7%の上昇にとどまっています。輸入では約7割がドル建てなのに対し、輸出ではドル建ては49.5%で、円建てが37%余りあるのも一因です。
そして貿易収支がこのところ大幅な赤字で、コスト高となる輸入が、為替差益を得る輸出よりも大きくなっています。貿易赤字分、円安はマイナスとなります。昨年1年間の貿易収支は1兆7,000億円の赤字でした。特に円安原油高が進んだ昨年後半では2兆5,000億円弱の赤字となっています。
円安で利益を上げた企業は労働者に還元せずに内部留保を積み上げる一方、輸入コスト高分は企業が負担する分もありますが、多くは価格転嫁して国民の負担となります。年間85兆円の輸入に対して為替が10%円安になると、8.5兆円の所得が海外に持っていかれ、そのコストを国民が負うことになります。
これは大幅増税されたのと同じことです。
この夏には参議院選挙があります。ここでは数がモノを言います。政府日銀が円安を放置すると、一部のグローバル企業の利益のために、1億2,000万人の国民がそのコストを負担するわけで、票読みをする側からすれば損得勘定は明らかです。